だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

デジョンテ・マレーのドラフト指名とスパーズの育成・スカウティング思想

後出しジャンケンジャンケン

ポン!勝ったー!ということで今それを言うのかという話をすると、Kはスパーズがドラフトでデジョンテ・マレーを狙っていただろう、というのは予想していました(ドヤァ)。というのも、ドラフト1巡目指名はルーキースケールで大体4年は契約するため、中・長期的な視点で欲しいポジションの選手を指名するというのが基本ですので、だったらスパーズで必要なのはPGだからPGを指名したいはずだ、とまずは考えたわけです。なぜなら、スラッシャータイプのパーカーは年齢による身体能力の衰えがプレーの質にダイレクトに反映されるため、実際に能力が衰えてきている今、早急に後継者を育成する必要があること、またミルズの契約があと1年しか残っておらず来オフには契約できないような金額の選手になっていることが確実で、新人にレギュラーシーズンの重要な仕事をいきなり与えてチーム成績に影響を及ぼさせることなく、まず1年しっかりと育成する時間を与えるには今年しかないことから、今年は将来パーカーに替わりうるハイポテンシャルなPGの指名を狙うだろうと予想しました。

また、ドラフト前にスパーズがより高位の指名権を得るために活発に動いている、特にジャズの12位かサンズの13位の指名権を狙っているというようなニュースがありました(ここはソース失念)。そこまで高位の指名権を得てでも、長期的な視点で補強の必要性があるポジションとなるともうこれはPGで確定と考えていいわけです(他のポジションは戦力が整っているし、スタッシュしている選手もいるので)。それとともにその順位で指名はできるが29位では無理そうなPGとなると、今年はウェイド・ボールドウィンとデジョンテ・マレーに限られていました。そもそも今年は純粋なPGで1巡目指名の可能性があったのは、クリス・ダン、デメトリアス・ジャクソン、タイラー・ユーリスの3人だけで、コンボガードでも上記の二人とジャマル・マレーのみ。ダンとジャマル・マレーは7位ぐらいまでに消えて、ユーリスとジャクソンは29位まで転がる可能性が十分にあったためわざわざ12・13位の指名権を得る必要が無い。となるとこの二人しか候補には残らないわけです。

ではこの二人でどちらを狙うか。一般的には、デジョンテ・マレーは極めて高い身体能力と優れたサイズ、広いコートビジョン、クリエイティブな発想、今ドラフト候補で最高レベルのボールハンドリングがあるのが良い点。一方、線があまりに細く、シュートが下手かつセレクションが悪く、状況判断(Decision Making)が悪いのが足を引っ張ってる。ポテンシャルは今ドラフトでも最上位クラスだがマイナス要素も大きすぎるという評価。ボールドウィンはマレーほどではないがまずまず身体能力が高くPGとして異例の長い腕を持ち、広いコートビジョン、ディフェンス力があり、シューティング技術も高く、全体として完成度が高い。一方突出して優れた部分は腕の長さぐらいで、ボールハンドリングが悪い、状況判断も悪くゲームメイクはあまりよろしくないという評価。これを前提とするならば、スパーズの育成方針から考えると、マレーの長所は正に歓迎すべきもので、問題点は長期的には問題ではない、最終的にはマレーのほうがより良い選手になるとそう考えられます。だから恐らくスパーズの狙いはマレーだろうと目星をつけていました。ではスパーズの育成方針とは何か、それをこれから書きます(なげえ前振りだ)。

結局、スパーズは上位のドラフト指名権を獲得できなかったものの、マレーの欠点をより重く見た他チームが指名を回避したためか(あるいは下位指名権のチームのワークアウトに行かず、それらのチームが不確実なギャンブルを避けたか)、マレーは29番目まで転がってくることになりました。ドラフト後にビュフォードGM「欲しかった選手の筆頭。もっと早く指名されると思っていた。指名順位を上げようと試みる価値のある選手っていうのはごく少ないし、そんな選手の一人がウチに来てくれて運がいい」とコメントしていましたが、またマレーと最初に面談したNBAチームはスパーズだったそうですが、一応これはKの予想的中ということでいいですかね(ドヤァァ)。

何が教えられて、何が教えられないか

はい、長い前振りを終えてこっから本題。ここまで既に1700字ぐらい書いてますが、ここから更にクソ長いです。なんと全体で45000字ほどあります。英文の引用が多く、アルファベットも1字で換算するので実質的にはそこまで長くないですが、それでも長すぎる。タイトルから関心が向かない人は読まなくてOKです。関心の向いた人は暇な時にでも休み休み、継ぎ足しで読んでください。

スパーズのスカウティングには他のチームにはない特徴があるというのは、NBAに関心のある人ならばどこかしかで目にしたことがある話かもしれません。例えば外国人選手の重視とか、能力よりも人柄を重視するとか。とはいってもあまり具体的でない、ぼんやりしたイメージしか持てないという人も多いと思います。外国人選手ったって、今時どこだってちゃんとスカウティングしてるんだからスパーズに特有の事象ということもないですし(例えば、シクサーズは今年のドラフトで、3つの1巡目指名権を全部外国人選手に使いました)、人柄と言われてみても、なんとなく「いいやつ」というぐらいのイメージしか持てないでしょう。

Kが知るかぎりにおいては、スパーズのスカウティングの特徴とは、教えられる(コーチできる)能力が欠けていることに対しては楽観的で、教えられない(コーチできない)能力が優れていることに対しては高く評価する、ということです。とりわけ後者の点において、人格・人間性がスパーズの求める水準にない選手は、どれだけ優れた能力を持っていても絶対に獲らないという基準があります。スパーズが外国人選手を重視しているのは、単純にAAUやNCAAの選手よりも才能が(多少は)見逃されやすいということと共に、教えられない能力を備えている選手が外国人選手のほうが多いとスパーズ自身が考えていることの結果です。

スパーズが「教えられる」と考えている能力とは具体的に何かというと、確認ができている範囲では、シューティング、状況判断(Decision Making)です。一方「教えられない」と考えている能力は、具体的には、サイズ・レングス、視野の広さ、そして既に述べた人格・人間性です。こうした点は他のチームでも評価項目にいれているでしょうが、スパーズの場合こうした点に対する評価の仕方が最も極端で、それ故に独特なスカウティングをしていると認識されているといえます。

これからこれらの点について順番に検討していきますが、「私はこう思います」という主観的な意見を連ねたところで「お前がそう思っているだけだろ」と突っ込まれたら御免なさいというしかありませんし、権威あるライターが書いたことを受け売りしても「そいつが勝手にそう思っているだけだろ」と言われたら反論のしようがありません。ですので、ここからの検討は極力、コーチやGMや選手などのインサイダーの実際の発言及び行動、更に参照可能なデータや映像に基づいて行っていきます。そしてそれらの検討を行ったうえで、デジョンテ・マレーという選手がスパーズにとっては非常に高く評価できる選手であるということを確認していきます。

シューティング

 スパーズとその育成について知ろうとするとき、最良の研究対象といえるのがクワイ・レナードです。レナードは大学時代から決して完成された選手ではありませんでしたし、大学時代のレナードはいわば身長6' 7"のPF/Cとでも言うべき、ほとんどリム付近でばかり仕事をさせられていた選手でした。それが現在ではリーグで最も効率的な3Pシューター、リーグ最高のウイングの一人へと変貌を遂げたことは周知のとおりです。その進歩とは、単にレナードがひとりでに成長したということではなく、まさしくスパーズの育成の結晶というべきもの、レナードとシューティングコーチのチップ・イングランドと育成コーチのチャド・フォーシアーの3人4脚による達成と見るべきものです。

こうしたレナードの成長を、その人となりと成長を関連させながら、高校時代から現在に至るまで追った3部作の記事をSAENのダン・マッカーニー記者とジェフ・マクドナルド記者が書いています。

 

 

 更にこの3部作の記事を書き上げるうえで行ったチップ・イングランドチャド・フォーシアーへのインタビューも公開されています。特に育成という観点からは、3部作の3番目の記事と両ACへのインタビューが示唆に富む内容で、今後はこれらの記事に大いに依拠して検討を行っていくことになります。

(Kの知るかぎりでは、レナードに関して書かれた文章の中で、この3部作が最も良いものであると思います。関心のある人は是非読むべきです)

 チップ・イングランドACはおそらくNBAで最も高く評価されているシューティングコーチと言ってよいかと思います。三国大洋氏のブログでも何度か取り上げられているので、日本のファンの間でもある程度知られた存在でしょう。では実際に彼がどのような指導をしているのか、どこまでが指導によって改善可能と考えているのか、ということを具体的に見ていきます。

 イングランドは、ドラフト時に対象となるプレーヤーのシューティングに関して評価する役割を与えられている一方、「シューティングは非常に個人的なもので、それを変えるのは簡単ではない」と上記のインタビューで発言しています。

"A shot’s very personal. It’s not easy to change your shot."

実際にスパーズのシューター陣のフォームを見てもそれぞれ個性があります。例えば、ボナーさんはやや前傾姿勢で顔の横ないし肩からボールを押し出すようなフォームで、グリーンは背中が真っすぐ伸びて前方にジャンプしながらジャンプの頂点で額の上から放つようなフォームで、ミルズはグリーン同様前に飛び出しながらもジャンプ中に下半身が前に出てやや後傾気味になりやすいところがあります。イングランドの指導方法は、特定の理想的シューティングフォームがあってすべての選手をそれに近づけさせるというよりも、個々のプレーヤーのフォームの個性・クセには手を付けずに、その中で改善可能な部分を改善していくというのが基本方針のようです。48 Minutes of Hellによるイングランドへのインタビューにおいては「重要なのはシュートを決めること。3P%を40%、FG%を45-46%、FT%を80%残せるなら、そのままやりたいようにやらせる」としています。このとき高効率ながら特殊なシューティングフォームの選手としてマイケル・レッドの名を挙げています。

"The most important result is making shots. [...] We look at their results, and if they can make shots- if they can do 40% from the 3-point line, 45, 46% from the field, and 80% from the free throw line- we’ll let them be, whatever they do.

So, Michael Redd, who has an unorthodox shot. If he can make shots, we just encourage him and help rebound for him."

逆に言えば、その手をつけ難いフォームの個性・クセによって本質的にシューティングレンジが限定されてしまう選手も存在することになります。この点については48 Minutes of Hellによるイングランドへのインタビューで語られています。「18-20フィートの距離では素晴らしいシュートを打てるのに、3Pレンジに押し出されると全く入らなくなる選手がいるが、どういうことが問題なのか」という問いに対して、そういった選手の例としてエルトン・ブランドを挙げつつ「下半身と上半身との連動があまりない、頭の上から放るようなフォームでは3Pまでレンジを広げられない」と答えています。

"Certain techniques can hold up to 18 feet. Elton Brand, for example, who shoots over his head but has a limited connection with his legs and his upper body, and its way back over his shed- that shot, that technique doesn’t take you back to the 3-point line. "

また、レンジを広げるための重要ポイントとして、「リリースポイントの位置、下半身と連動した動き、肘と手首の使い方」を挙げています。

"It[the key for that range] would be where your release point is, coupled with your motion together with your legs. So it would be, How do you combine those two. How you are using your elbow and your wrist. So it gets pretty complicated, what holds you back from that."

このGrantlandの記事では、パーカーにおいてはミッドレンジジャンパーの改善に手をつくした一方で3Pをそもそも捨てさせたことが書かれており、実際にイングランドの指導を受ける以前/以後で年間100本以上3PAが減っています。

Engelland insisted that Parker take the 3-point shot out of his game, and he has; after averaging nearly 200 3-pointers per season during his four seasons in the league without Engelland — and hitting on just 31.5 percent of them — Parker has averaged just over 56 3-point attempts per season since.

2002-2003シーズンでは243本打っていた3Pが、イングランドがスタッフに加わった2005-2006シーズンには36本に激減しているのはなかなか壮観ですが、一方で2P%とFT%の向上によってeFG%やTS%は向上しており、3Pを捨てることによってパーカーのシューティング能力はむしろ総合的に見て向上しています(ただし、コーナー3は捨てておらず、技術的に向上しているのか、近年はむしろ3P%がかなり良くなってきていて、3PA比率もわずかながら増えてきているのが面白いところです)。イングランドの手にかかれば誰でも彼でも魔法のように3Pが入るようになる、ということはなく、プレーヤーの個性に合わせて総合的にシューティングを最適化していく、そのためにはレンジをむやみに拡大するのではなく、向いているレンジに限定して精度を上げていくこともあるわけです。選手によっては、3Pはおろかミッドレンジも捨てよ、リム付近での得点に集中せよ、という指導ももしかしたらありうるのかもしれません。フリースローはどんな選手でも絶対に向上させなければならないでしょうが。

 イングランドが「シューティングの改善が可能」と判断した選手について一つ面白いのが、過去の実績についてはほとんど無視しているフシがあることです。将来良いシューターになれる素材なら、過去及び現在どれほど悪いシューターであろうが構わない、というやや過激なスタンスが見え隠れします。レナードは大学時代3P%がわずか.250しかなく、このシューティングの弱さが決定的な弱点であると多くのスカウトやメディアに考えられていましたが、先のインタビューによるとイングランドはドラフト前に彼のシューティングを生で見て「完全に作り変える必要はない、ちょっとした修正で非常に良いシューターに化けうる」と考え、また実際に驚異的なシューターへと成長させています。

"I felt his shot didn’t need a full makeover. With just a tune-up, he could become a very good shooter, if not great shooter."

また、ミルズも大学NBA入り当初はあまり効率の良くないボリュームシューターという面が強く、特別良いシューターとは認識されていなかったかと思いますが、スパーズに入ってからは3P%、eFG%、TS%ともに大幅に改善しています。しかし、この観点から見て最も極端な評価のされ方をしてしているのが、去年ドラフト55位で指名されたキャディ・ラレーンでしょう。ビュフォードGMにしろブライアン・ポウガスカウト部長にしろ、彼を語るときに出てくるのが「フォームが本当に良い、将来的に良いシューターになる」という言葉です。

(Pauga)"He didn't get a chance to shoot a ton at UMass from the perimeter, but we feel with some work and development, he can become a pretty good shooter."

(Buford)"He’s an athletic big guy who has a really good shooting form"

こうした評価自体は別に珍しいものではありませんが、彼はそもそも大学でCとしてプレーし続けてきた選手で、アスレチックなリバウンダー・リムプロテクターという評価を受けてきたわけで、大学4年で47本しか3Pを打っておらず、そのうち10本しか決めていないCをシューターとして育成しようという発想は普通は出てこないでしょう。2015-2016シーズンはオースティンでプレーしましたが、NBAと同じ距離の3Pラインと大学よりもレベルの高いチームを相手に、1試合あたり3.6本の3PAで(3PA比率は.345)3P%は.337と平均的な成功率を残しています。将来的にどこまで成長するのか、そもそもNBA入りできるのかなどまだ不透明ですが、「将来良いシューターに育成できそうなら、過去の実績は問題にしない。プロに入ってからでもシューティングは身につく」というスパーズの育成思想の一面を極端なかたちで表現している選手といえます。

 ジェフ・マクドナルドのインタビューなど、レナードのフォーム修正に関するイングランドの発言でよく出てくるのが、レナードのドラフトの前年にリチャード・ジェファーソンのシューティング改善に成功したこと、そのジェファーソンの修正前のフォームとレナードの修正前のフォームが良く似ていることです。そしてこの時ジェファーソンはすでに30歳であったこともだいたい付言されています。

"What helped with Kawhi … the previous year, Richard Jefferson, we had changed his shot. He had a similar shot, behind his head. [...] I showed him pictures of Richard, and pictures of himself. They both had this (mimics the behind-the-head form). Richard was 30 years old when he changed his shot. We thought Kawhi could change, too."

一般的にNBAでは若さとはポテンシャル・伸びしろの大きさであり、大いに価値が有るものとみなされがちであるといえます。例えば今年のドラフトでも、マーキス・クリスが8位、ブライス・ジョンソンが25位で指名されましたが、シューティングレンジやリバウンド力でそれぞれ長短あるものの、ふたりともスーパーアスレチックな4番で、身体的な面でもプレースタイルの面でも非常によく似た選手です。この二人の評価の差は、ほとんどがまる3歳の年齢差によるものといえます。一方で30歳で行ったジェファーソンのシューティングの修正は、劇的と言って良いほどの成果でした。ジェファーソンは2001-2002シーズンからキャリアを始め、2009-2010シーズンにスパーズに加入、失敗とされるシーズンを経て、おそらくはその夏のオフにイングランドによるフォーム修正を受けたわけですが(シーズン中から修正を受けていた可能性は排除できませんけども)、そこで2001-2009までの期間と、2010-2016までの期間でデータを比較してみましょう。「スパーズ以前のジェファーソン」と「イングランドによる指導後のジェファーソン」を明確に分けるために、2009-2010シーズンは除外します。basketball-reference.comのデータを元にした計算を行いました。2001-2009の期間では、3P=402、3PA=1139で3P%は.353、FGA=7401で3PA比率は.154でした。対して2010-2016の期間では、3P=517、3PA=1250で3P%は.414、FGA=2556で3PA比率は.489でした。3P%も3PA比率もイングランドの指導後に大幅に向上しています。とくに2010-2011シーズンは、前シーズンの3P% .316とはうってかわって、キャリアハイの3P% .440 / eFG% .579 /TS% .612を残しています。3PA比率.478はそれまでの最高である.241のほぼ倍の数字になっており、シューティングの劇的な改善とともに、プレースタイルもアスレチックな点取り屋タイプのSFからシューターへと変わっています。ジェファーソンの獲得はスパーズにとって失敗であったと一般的に認識されていると思いますが、30歳にしてこれほどの改善に成功したという経験は、スパーズのコーチ陣やフロントに、シューティングの改善に年齢は関係ない、若い選手ならなおさら、という自信をもたせるのに十分なものだったと思われます。2010-2011シーズン後のドラフトで獲得したレナードについては、先に引用したコメントの通り明確にその認識が現れていますし、ミルズやグリーン、ベリネリ、ニールといった、同時期ないしその後に獲得した既に幾ばくかのキャリアのあるシューターの育成においても有意義だったでしょう。また、ジェファーソンにとっても、身体能力の衰えが出てくる30代のキャリアをどう戦っていくか、という点において、その転換点になったのがスパーズにおけるイングランドの指導であったことがスタッツに現れているといえます。アスレチックなスウィングマンからシューターへ、というのはヴィンス・カーターがその典型と認識されているでしょうが、カーターのスタッツと(特に3PA比率を)見比べてみると、2010-2011シーズン以降のジェファーソンはカーター以上に急激で明確なプレースタイルの移行をしていることがわかります。ジェファーソンのスパーズ移籍は、スパーズとジェファーソンの両者にとって単純に「失敗」の一言では片付けられないものだったといえます。

 さて、イングランドのシューティング指導についてさらに具体的で技術的な部分を拾っていきながら、イングランドが良しとするシューティングがどういうものかを探ってみたいと思います。NBAのオフィシャルビデオでグリーンがシューティングの基本となるBEEFについて解説しているものがありますが、これは当然基礎中の基礎として指導されていると考えていいでしょう。BEEFについてはステフィン・カリージマー・フレデットが解説しているビデオもあります。シューティングレンジを伸ばすための鍵として「リリースポイントの位置、下半身と連動した動き、肘と手首の使い方」を挙げていることは上述の通りです。

まずはリリースポイントの位置から見ていきます。上述の通りイングランドは、シューティングの際ボールを頭頂部ないしその後ろまで引き上げるようなフォームではレンジを広げられないと考え、リリースポイントは体の軸よりも前に置くように指導していると考えられます。実際にレナードのフォームを映像で見てみると、大学時代の修正前のフォームでは体の軸の後ろまでボールを引き上げていますが、修正後はそれよりも前で止めていてリリースポイントも前方にあることがわかります。リリース時の肘の位置も修正前は目の高さよりも高い位置にあった(0:58)のが、修正後は目の高さよりも低い位置まで下がっています(1:24)。グリーンやミルズはリリース時に肘は肩と同じ高さにありますし、ボナーさんは肩より低い位置で肘をセットするのでそれらに比べれば高いですが、その辺りはある程度個々のプレーヤーの個性・クセに属する部分で、肘やボールの位置について万人に共通の理想的なポイントが存在しているから必ずそこに合わせろ、という指導ではないでしょう。しかし「リリースポイントは体の軸の前に置く」「ボールを高く持ちすぎない」という点は良いシューターになるために必須の技術という認識でしょう。

次に下半身の使い方について、48 Minutes of Hellのインタビューではリリースポイントの位置とともにその重要性を強調しています。

"It[the key for that range] would be where your release point is, coupled with your motion together with your legs. So it would be, How do you combine those two."

"Legs and a jump shot go hand in hand.”

 一方でそれがもっと具体的にどういうことなのかについては言及がありません。ローン・チャンによるキャディ・ラレーンへのインタビューで、イングランドから受けた指導についてのコメントがあり、下半身の使い方について少し語られています。

“Chip Engelland, San Antonio, and Austin coaches have reworked my whole shooting process,” Lalanne said. “Before, I wasn’t using my legs much. Now, I’m bending my knees, holding my follow-through and using all the right mechanics. I’m feeling more confident every day.” 

 要は「しっかり膝を曲げる」ということですが、特に奇をてらった所のない指導といえます。フロアを蹴り上げる力をボールに伝えるというのはごく基本的なことですが、ここでもレナードのフォームを見てみることにしましょう。大学時代のレナードのロングレンジショットの映像はあまり多くないのですが、ドラフト前のワークアウトの映像及び、大学時代のハイライトを見てみるとジャンプシュートの際ほとんど垂直にジャンプしている一方、現在はやや前方にジャンプするようになっているのが、下半身の使い方での目立った違いといえます。このような「ジャンプシュートの際やや前方に踏み切る」ようなジャンプの仕方は、特にグリーンに顕著ですが、ミルズボナーさんベリネリニールヒルなど最近のスパーズのシューターに共通の特徴であることが映像からわかります。また、大学時のラレーンのコーナー3の練習の様子が映像で残っていますが、この映像ではほとんど膝を曲げておらずジャンプも大体真上に飛んでいますが、同じコーナー3でもオースティンでプレーするようになってからはこの時よりも膝を深く曲げ、より大きく前方に踏み切るようになっています。こういった映像、特にレナードとラレーンの変化から、イングランドは下半身の使い方として「膝をしっかり曲げる」「真上ではなくやや前方に踏み切る」ように指導していることが伺えます。ジャンプの際前方に踏み切るというのはJ.J. レディッククレイ・トンプソンやカイル・コーバーなど多くの優秀なシューターがやっていることですが、一方でステフィン・カリーJ.R. スミス、レジェンドのレジー・ミラーなどはほぼ真上に飛ぶフォームで、必ずしも最適な下半身の使い方についてのコンセンサスがあるとは言えない状況でしょう。その中でのこうした共通性は特徴的であるといえます。リングはシューターの前方にあるわけですから、真上に飛んでボールに上向きだけの力を加えるのではなく、やや前方に飛んでよりリング向きのベクトルの力をボールに加えるほうが良いと考えているのかもしれません。

リリースポイントと下半身の使い方以外の点について、イングランドの具体的な指導に触れられた発言・文章を拾ってみましょう。Grantlandの記事から、スティーブ・カーについて、指を従前よりも少し広げ人差し指をリリース時により多く使うように指導しています。

“It was very subtle,” Kerr told me, “but before I started working with [Chip], the ball rolled more off my middle finger than my index finger. He taught me to spread my hands out a little wider on the ball and use my index fingers more.” Kerr says that switch made him a more consistent shooter by allowing him more control over his shot and making it far less likely that the ball would slip and roll off his pinky fingers.  

 パーカーについて、ボールを持つ位置を下げ、親指の位置を外側に広げてボールをより良く掴み、シュートモーションを遅くし、リリースポイントを変更させています。

In Parker’s case, the first thing Engelland noted was that while his form was exemplary on his one-handed runners and teardrops, Parker held the ball differently on his jump shot. Rather than keeping his right hand under the ball, Parker had it slightly higher up. So, beginning with training camp in the fall of 2005, Engelland reconstructed Parker’s shot, moving his right hand down, his right thumb out to widen his grip, slowing down his motion and even changing his release point. 

 先に引用したラレーンのインタビューから、フォロースルーを固定するという指導もあります。これ以上の情報は、Kが調べた限りでは見つかりませんでした。カーのようなNBAで既に最高峰のシューターだった選手に対しても技術的な改善点を見つけ出すのはすごい話ですが、パーカーと両方に共通する点として「指を広げてボールをより良くグリップする」ように指導しているのは興味深い点です。レナードは非常に手が大きいことで知られていますが、USA Todayの記事によると、イングランドはこの点においてスカウティング段階で高評価していたようです。

"He shot pretty far back behind his head, but he had good grip and he had some nice tools."

以前このブログで 「どうしてビッグマンはフリースローを決められないのか」というESPNの記事を紹介したことがあり、よくある「ビッグマンは手が大きすぎて相対的に小さなボールをコントロールするのが難しいから、フリースローが下手なんだ」という説をその記事では否定していましたが、イングランドは当然その説には賛成しないでしょうし、レナードに対する評価を考えれば、手が大きいことはシューターにとって美点であるとすら考えているかもしれません。

最後に、イングランドにとってシューティング改善のプロセスとは、リングに近い位置から始まり、徐々にレンジの拡大と精度の改善を進めていく、年単位の時間のかかる長期的なプロセスであるといえます。basketball-reference.comのレナードグリーンミルズニールヒルそれぞれのShootingの項のコーナー3比率を見てみると、在籍当初は比率が高く、ピークを付けてからはからスパーズ在籍期間に年々下げ続ける傾向があることがわかります。リングとの距離が近いコーナー3から、より遠いアーチ部分からの3ポインターへと、シューティングの向上にともなってシューティングエリアを拡大させている、信頼できるシューターにはアーチ部分からの3Pをより多く任せて、他の選手に効率のよいコーナー3の仕事を任せていると考えられます。ジェフ・マクドナルドのインタビューでは、いきなり3ポイントラインから打たせようとしてはいけない、1日で結果を求めてはいけないと語っています。レナードがそうした長期のプロセスに取り組める選手だとも。

“Just to be patient, not get too down. Don’t try to push it out to the 3-point line at first. I remember the first year here, he[Leonard] was just getting comfortable on the wings. You don’t want to rush and try to get results in one day. He has that way about him. He will work hard over a long period of time for a goal. He’s a throwback in the way that he doesn’t need immediate satisfaction. He knew the benefits would be down the road.”

 シューティングに限らず、プレイヤーの育成とは何年もかけて行うことであり、その手間と時間を惜しまず、地道な成長プロセスを我慢して待てるというのはスパーズの特徴として恐らく一般的に認知されていることでしょう。ジノビリはドラフト指名されてから3年後に加入しましたが、彼についてフリップ・ソーンダースが「ジノビリが良くなっていくだろうということは多くの人がわかっていたんだけど、当時(ドラフト時点)多くの人は彼のために待とうとしなかった」と語っています。

"Ginobili that was a pick that a lot of people knew was going to be good," Timberwolves president of basketball operations Flip Saunders said. "It's just at the time a lot of people didn't want to wait for him." 

レナードは5年目の劇的な成績向上(シューティングに限らない)について、「今年の夏やったことだけが要因ではない、過去4年間積み重ねてきた経験によるもの」と発言しています。

“No, I worked hard,” Leonard said. “It’s my fifth year, [and] it’s just not about what I did this summer [to prepare]. It’s about the experience that I’ve had under my belt for the past four years.”

はい、ということであまりにもこの項が長くなってしまったので、要点のみ箇条書していきます。

  • シューティングは非常に個人的なもので、変えるのは難しい。フォームの個性・クセには手を付けずに、その中で改善可能な部分を改善していく。
  • こうしたフォームの個性・クセの内容によって本質的にシューティングレンジが限定されてしまう選手もいる。そういった選手は無理にレンジを拡大しようとせず、限定されたレンジの中で精度を上げていく。
  • 3Pラインまでレンジが拡大できそうで、将来良いシューターに育成できそうだと判断したなら、過去の実績は問題にしない。プロに入ってからでもシューティングは身につく。
  • シューティングの改善に年齢は関係ない。
  • シューティングレンジはリングに近い位置から始めて、まずはコーナー3、次にアーチ部分からの3Pへと時間をかけて徐々に拡大していく。
  • シューティングの改善は年単位の時間がかかる長期的なプロセス。地道な改善を何年もかけて我慢強く行っていく。

具体的な技術的な指導内容については「スカウティング・育成思想」というテーマから少し外れるのでここには含めません。

状況判断(Decision Making)

 ジェフ・マクドナルドのイングランドへのインタビューで、レナードの今の課題は技術のミックスの仕方、どのタイミングでどんなプレーをするかを学ぶことだと語っています。

 “Just how to mix – when to drive, when to mix, when to pass, when to shoot again, when to post up. ”

 チャド・フォーシアーも、レナードのオフェンス面での今の課題は状況を理解して状況判断(Decision Making)を改善することだと発言しています。

 Offensively, more than anything, he’s at a place where he’s trying to grow his understand of situations and improve his decision-making. 

 (Decision Makingはよく出てくる語ですが、翻訳がやや難しい言葉です。英和辞書では「(政治機関の)政策決定」「(組織の)意思決定」などと載っています。バスケットボールというスポーツにおけるDecision Makingは、具体的な状況における具体的な行動選択という意味であると理解していいと思います。しかしながら「良い意思決定」とか「意思決定の改善」等と日本語で書いてもあまりしっくり来ないな、というのがKの認識です。辞書にない訳ではありますが、「良い状況判断」「状況判断の改善」であるならば、バスケットボールに限らずスポーツ一般のプレーに関する表現としては、日本語としてしっくり来ると感じます。他の方がどう感じるかはともかく、ここで「状況判断」という語が出てきたらそれは英語のDecision Makingのことであると理解していただければと思います)

フォーシアーはこの能力の鍛え方として、「たくさんプレーすること」「経験を積み重ねること」「映像を見て研究すること」「ポポヴィッチと対話を積み重ねること」「ポポヴィッチと映像を見ること」を挙げています。そしてそれは「一緒にプレーするチームメイトがどんな人間かを理解し、どういうプレーをするか理解すること」であり、全員が理解しなければしけないことだとしています。

“Offensively, more than anything, he’s at a place where he’s trying to grow his understand of situations and improve his decision-making. It’s a lot of playing, a lot of experience, a lot of studying film, a lot of conversations with Pop, a lot of film with Pop. It’s understanding who he’s playing with, who his teammates are and how we’re trying to play. And that’s always an evolving thing. There’s always going to be an evolution to who we are and how we are doing what we’re doing. Everybody — not just Kawhi — has to understand that and grow in the understanding of how it’s done.”

 状況判断は複雑な要素が絡むものですが、けして生来の気質でできるできないが全て決まるものではなく、鍛えられる能力であると認識していることは確実です。レナード自身2015年の夏の期間に「ドリブルからキャッチアンドシュート、状況判断まで、あらゆることをかなりたくさん練習した」と発言していますが、練習で身につかないのなら練習しなくてもいいはずです。

“I pretty much worked on everything [over the summer], from dribbling to catch-and-shoot, my decision-making,” 

 また、レナードがオフェンスの中心になったことによって、ダブルチームでかかられるケースも増えたため、これにどう対処するかを昨シーズン中ポポヴィッチと研究したようです。こうしたものも状況判断能力の改善の一つといえます。

Some of the best offensive players in double teams would “get you in a situation where they knew where they were going to go with the pass. Right now, he’s dealing with that,” Popovich explained. “Do I try to score? When am I in a crowd? When am I not in a crowd? When do I let it go? All those decisions. That’s really the part of his game he’s working on the most.” 

 (この記事の主題は、彼らがダブルチーム対策をチャールズ・バークレーの映像を見て研究しているということで、これを教えられたバークレー自身の「ダブルチーム相手に勝負はするな、うまく引きつけてパスを出せ」というアドバイスも載っています。自分で勉強してもらってるのがよっぽど嬉しかったのか、その後「レナードは世界最高のプレーヤー、レブロンよりも上!」と言ったり「世界最高のプレーヤーはレナードとレブロン、カリーよりも総合力で上!」と言ったり、レナードびいきが随所に出ててかわいい)

 状況判断を改善していくプロセスは、シューティングと同じく、長期的なものというのがスパーズコーチ陣の認識です。イングランドは、いつどのような異なる技術を組み合わせるかという技術のミックス(これは発言内容から見て状況判断と同じものでしょう)は最も難しいもので、試合の中で何年もかけて磨き上げる必要があると語っています。チームスポーツで、チームメイトを顧みずにかってなプレーはできないから、状況判断を身につけるのは難しく時間がかかるのだとも。

“When I worked with Grant Hill many moons ago, the next step is when to do what. He had a lot of different skills. When to post, when to do the turnaround, when to do the jump-hook, when to shoot the 3, and when to drive. Mixing is the hardest thing. It’s like a great pitcher – when do I throw the curve, or the change-up. It’s very tough. That takes years and years of honing, in games.” 

“Just how to mix – when to drive, when to mix, when to pass, when to shoot again, when to post up. That all just takes time and experience. Because you have to do all that within your team game. You can’t just run roughshod over your teammates to try to do that."

 状況判断を鍛えるのは長い時間がかかるプロセスですが、しかし鍛えることは可能だし、フォーシアーが語るように、レナードのみならずチーム全員が互いを理解し身につけるべき能力であるというのがスパーズの認識でしょう。

サイズ・レングス

ここからはスパーズがコーチできないと考えている能力について見ていきます。まずはサイズ・レングスについてです。サイズと言っても、筋肉量を増やすことは筋力トレーニングによって可能です。ここでいうサイズ・レングスとは具体的には身長や腕の長さ(ウイングスパン)、スタンディングリーチのことです。これらがコーチングで伸ばせないというのは当然のことです。問題は、それらを実際にスパーズが重視しているかどうかです。Kが探した範囲ではスパーズがそれを重視しているとする情報やインサイダーの発言はありませんでしたが、実際の行動、つまりドラフト指名選手のサイズを調べるとサイズ・レングスのある選手、特にウイングスパンの大きい選手を指名する傾向があることがわかります。ザック・ロウがレナードとヒルのトレードについて書いた記事において、2010-2011シーズンのスパーズはSFにジノビリを置くような3ガードの布陣で戦う場面が多く、結果サイズとディフェンス力のあるウイングの必要性を理解し、それがレナードのトレードに結びついたとしています。

But in the short run, the Spurs got Leonard for his defense. The 2010-11 Spurs were either shaky or small on the wing, a no-no for any team interested in competing with Kevin Durant or the new Heat. Those Spurs started a declining Jefferson at small forward, and when Jefferson rested, they usually went with a smaller three-guard set in which Manu Ginobili effectively played small forward. San Antonio understood that would not cut it. The Spurs thought Leonard might be the answer, ...

DraftExpressには、ドラフト前の身体測定値のポジション別平均値という非常に面白いデータがありますので、これを基準としてスパーズのドラフト指名選手のサイズ・レングスの傾向を見てみます(2017/06/04 14:40 追記:DraftExpressの測定データのリンク修正。身長別のウイングスパンとスタンディングリーチの平均値はデータそのものがDraftExpressから削除され、また記事中で使用しなかったため削除)。また、こちらの記事によると平均的なNBA選手のウイングスパンと身長の比率は1.06から1.00の間にあるそうですので、これを念頭に置いてウイングスパン/身長比も計算してみます。なお、ドラフト指名選手のポジション別平均のウイングスパン/身長比を計算してみると全ポジションで1.06程度です。

まずはレナードを獲得した2011年以降のドラフト1巡目指名選手を見てみます。最も標準的と考えられるNBAドラフトコンバインでの測定をベースにします。カッコ内は順に(ポジション、シューズなしの身長、ウイングスパン、ウイングスパン/身長比)です。2011年はレナード(SF、6' 6"、7' 3"、1.12)とジョセフ(PG、6' 2"、6' 5.5"、1.05)、2014年はアンダーソン(SF、6' 7.5"、7' 2.75"、1.09)。2013年のジャン=シャルルはシューズなしの身長がありませんが、通常シューズありで1インチほど上がりますので彼の場合はシューズなしの身長を6' 8"と仮定して(PF、6' 8"、7' 2.5"、1.08)。2015年のミルチノフは公式の公開情報がありませんが身長7' 0"でウイングスパン7' 3"というのが情報が一般的で、シューズなしの身長を6' 11"と仮定して(C、6' 11"、7' 3"、1.05)。ドラフト指名選手のポジション別平均と比べてみると、どの選手も身長かウイングスパンの少なくとも一方は平均以上で、全体として皆平均以上のサイズ・レングスあることが分かりますし、特にレナード、ジャン=シャルル、アンダーソンのウイングスパンの大きさが目立ちます。もちろんドラフト指名においてこればかりを重視しているわけでは全くないでしょうが、近年はサイズ・レングスが各ポジションで平均以上、特に腕の長い選手を好んで指名する傾向があることがわかります。

2010年以前の1巡目指名選手を見てみると、2010年のジェイムズ・アンダーソン(SF、6' 4.75"、6' 8.5"、1.05)はサイズ的に劣る選手で、2004年のウードリック(PG、6' 2.5"、6' 4.5"、1.03)と2007年のスプリッター(C、6' 10.25"、7' 2"、1.05)は標準的なサイズ、2008年のヒル(PG、6' 1.25"、6' 9"、1.11)はサイズの優れた選手といえます。また、2009年の実質的なドラ1といえるブレア(PF、6' 5.25"、7' 2"、1.11)は身長は低いもののウイングスパンは非常に大きく、スタンディングリーチはポジション平均に達しています。公式の公開情報が見当たらないのは残念ですが、2005年のマヒンミは非常に腕が長いと言われており、恐らく平均以上にサイズのあるCであると思われます。全体的に見て、2010年以前はサイズ・レングスに対して特定の傾向はなかったといえるのではないかと思います。

この記事では身長よりもウイングスパンの方がブロック能力にとって重要、また相対的に身長の低い選手が高い選手とマッチアップする際に不利を減らすとしています。ブロックにかぎらず、ディフェンス面においてサイズ、とりわけウイングスパンの大きさはかなり影響力があるといえます。材料として2015-2016シーズンのアンダーソンとジョナサン・シモンズを比較してみます。

前シーズン2番手のSFの座を争うライバルであった二人ですが、開幕前の段階でディフェンス面での評価は「シモンズは素晴らしいディフェンダーだが、アンダーソンは全然ダメ」というのが一般的でしたし、シーズン中もそういった評価が多かったかと思います。シモンズはアスレチックな選手でフットワークがいいですし、Dリーグのオールディフェンシブ3rdにも入ったことがありますが、アンダーソンはフットワークがNBAで最も遅い選手の一人で見た感じのプレーも不格好なので特に悪く感じさせます。しかしデータを見ると全く逆の様相を呈します。ESPNのReal Plus-Minusでみてみると、アンダーソンは+1.97でSFの選手75人中5位なのに対してシモンズは-2.02でSGの選手93人中69位です。Defensive Box Plus-Minusではアンダーソンが+3.7なのに対してシモンズは+0.2、48分あたりのDefensive Win Share(計算の必要あり)ではアンダーソンが.106なのに対してシモンズは.077です。NBA.comのトラッキングデータを見ると、アンダーソンのDefended FG%(自分がシュートをディフェンスしている時の相手のFG%)は.419でディフェンスしている相手の平均FG%が.431なので1.2%余分に相手のシュートを抑えているのに対し、シモンズのDefended FG%は.509でディフェンスしている相手の平均FG%が.432なので7.7%余分に相手にシュートを決められていることになります(10/30 7:10 追記:NBA.comのトラッキングデータのURLを修正)。特にアンダーソンのDefended 3P%が.250で9.0%も相手の3Pを余分に抑えているのに対して、シモンズのDefended 3P%が.394で5.7%も余分に決められている、アンダーソンとシモンズの間で14.4%もDefended 3P%に差が付いている点が、ディフェンスの効率性という点で両者に大きな差をつけているといえます。

ベッキー・ハモンACは、ディフェンスの多くは集中力とフットワークの問題、角度などちょっとしたことでスピードや身体能力の欠如は埋められる、とアンダーソンのディフェンス面での成長についてコメントしています。

 Developing defensively in the offseason, often in a gym alone, isn’t as straight-forward as putting up 200 jump shots or free throws to hone a stroke.

“You can learn a lot defensively by watching tape,” Hammon said. “A lot of it, it’s just footwork and concentration. There are simple things, like angles, little things that maybe you can compensate for your lack of speed or athleticism. There are lots of ways to get better defensively other than doing slides in the gym.”

 参照可能な映像ソースを挙げられませんが、前シーズンは3Pライン付近では抜かれないように比較的距離をおいて守っていた印象がありますが、SFとしては例外的な腕の長さと、フットワークの遅さからは意外なボールに対する反応の速さがあるため、距離を大きめにとっても相手のロングジャンパーに食らいついてオープンショットにさせない能力があり、うまく自分の身体的特徴を活かすような工夫をしていると思います。また、スティール率はジノビリとレナードに次ぐチーム3位で、このスティールのうまさも腕の長さとボールへの反応の速さの賜物でしょう。フットワークの点でアンダーソンとシモンズには圧倒的な差がありますが、ディフェンス面で非常に重要なこの差を、サイズ・レングスとそれを活かす工夫で埋める事は十分できますし、さらにそれ以上のものをもたらしうるといえます。

視野の広さ

 スパーズのオフェンスの目的は得点期待値の高い方法でシュートし続けることで、コーナー3の多用やオープンのプレーヤーを作り出すためのパスワークなどはそのための手段といえます。とりわけパスワークは現在のスパーズを象徴するものと言え、2013-2014シーズンに見せたいわゆるBeautiful Gameはチームバスケットの最高峰でしょう。またスパーズが開発してきたモーションオフェンスは、ウォリアーズやホークスをはじめ、プレーヤーもボールも動かす現在の戦術に非常に強い影響を及ぼしています。

スパーズのチームバスケットを遂行するためには、戦術理解力、状況やプレーヤーの位置関係を瞬時に正確に把握する視野の広さ、それらをベースに最適な行動を選択する状況判断力などが必要になるでしょう。自分より状況の良いプレーヤーやオープンなプレーヤーがいても、そういった選手を見つけられないかぎり然るべきパスは出せません。この能力について、ポポヴィッチは「教えることができない」と明言しています。

まずアンダーソンについて、「他の選手をより良くすることができる、非常に良いパサーで、フロアがよく見えている。それはコーチできないことだ」とコメントしています。

 "Well, Kyle makes everybody better," Popovich said. "He is a heck of a passer. He really sees the floor. That's something you can't coach. Some guys have it; some don't. He's really a smart player. He's going to play a variety of positions during the season."

 次にシモンズについて、「最初のオープンな選手を見つけられるだけでなく、フロアで起こっている何か他のことまで見えていることがある。これは教えるのが難しい。教えることができるかわからない」とコメントしています。

 Said Popovich: “He sees things; the second or third iteration. You can see the first guy that’s open, but sometimes he sees something else developing on the floor. That’s hard to coach. I don’t know if you can coach it. It’s just a natural affinity for that part of the game, and he has that.”

 (ほげー、これは翻訳が難しい。多分「シモンズは単に今オープンなプレーヤーが見えるだけでなく、展開まで予測してもっと有利な状況になる他のプレーヤーまで見つけてしまう、こういうのって教えられない生まれつきの才能だよね」という趣旨だと思うんですけど)

さて、Kはこの項を「視野の広さ」と題しましたが、これに対応する特定の語(よく使われるcourt visionとか)があってそれを翻訳しているわけではありません。ポポヴィッチが"sees the floor"とか"sees things"と言っていることをこう日本語に当ててみたわけですが、言ってることは結構曖昧です。少なくとも、物理的に見えているということだけをさして"see"と言っているわけではないでしょう。アンダーソンに対して同じ文脈で"He's really a smart player."と言っていることや、シモンズへのコメントの内容から、状況を正しく理解していること、状況がどう展開するかを正しく予測することもこの"see"に含まれていると思われます。また、こうした理解や予測をできるプレーヤーかどうかは、プレーヤーが実際に然るべきプレーができない限り第三者はそれを確認できません。例えばオープンなプレーヤーがいることを認識したとしても、そのプレーヤーにパスを通さないかぎりは、第三者は彼がオープンなプレーヤーを見つけられたのか見つけられなかったのか確認できません。正しい状況判断の結果、その範囲で彼がこうした視野の広さを持つプレーヤーであることが第三者にも理解できるわけです。ポポヴィッチが"sees the floor / sees things"というところのものは「物理的に周りがよく見えるだけでなく、状況を正しく理解し、直後の展開を正しく予測する能力で、状況判断の基礎になる能力」であると理解できます。バスケットボールIQという、よく使われる割にこれまた曖昧で具体的な定義がわからない用語がありますが、これはポポヴィッチのいう"sees the floor / sees things"とだいたい同じものではないでしょうか。

人格・人間性

 結論から言うと、スパーズがスカウティング段階で最も重視するのが人格・人間性であり、これはチームに入ってから変えられるものではないと認識しています。

スパーズのチーム編成を担っているビュフォードGMは、ダンカン引退に際してThe Verticalのエイドリアン・ウォジナロウスキのPodcastに出演したとき、ダンカンの存在がロースターの編成においてどのような影響を与えたかについて質問され、「まず最初に人間性を見るところから始める、才能を評価するところからじゃなくて。ダンカンと一緒にプレーすれば皆より良いプレーができるけど、ダンカンと一緒にプレーする責任を扱える人間はそうは多くない」と発言しています。

 今オフにスパーズからマジックへと移籍したフォーシアーは、マジックへ何をもたらしたいかについて問われ、「スパーズが一番重視しているのは人格と人間性。常にそこから始まるし、多分カルチャーってのはそうやって集まった人々の反映だよ。そういう哲学を導入する機会があればいいし、そういう哲学をとり続けられればと思う」とコメントしています。

 “Just overall, philosophically, the number one value with the Spurs was character and the people and who you add to your group, whether it’s your players or coaches or other staff members. It always starts with the character and the type of people that walk through your doors and that’s what hopefully the culture is a reflection of who the people are. I hope I’ll have the opportunity to support that philosophy and stay committed in that philosophy.”

 スパーズのインサイダーの中で、こうした人格や人間性の重要性について最も多く発言しているのがポポヴィッチです。チャド・ヘニングスというアメフト選手が昨年出版した"Force of Character(人格の力)"という本の中で、ポポヴィッチに対して人格をテーマにしたインタビューを行ったようで、その内容がHoopsHypeにかなりしっかりした量で抜粋されています。ポポヴィッチは色んな所で人格・人間性の重要性について断片的に語っていますが、ここではそれらの内容がほぼ完全に網羅されていると思います。また、ESPNのセス・ウィッカーシャムによる、スパーズの外国人選手の重視について書かれた記事では、その国際化を推し進める(そして国内選手を軽視する)根拠として人格・人間性の重視があることをポポヴィッチが豊富に語っています。この項は主にこの2つの記事に依拠して書いていきます。

 HoopsHypeの記事において、「人格(Character)」という語は意味が一般的すぎるので、もう少し具体的にしたいと前置きしたうえで、まず最初に、ユーモアがないとスパーズでやっていくのは難しいと語っています。

"Having a sense of humor is huge to me and to our staff because I think if people can’t be self-deprecating or laugh at themselves or enjoy a funny situation, they have a hard time giving themselves to the group."

 次に、アンセルフィッシュであることの重要性について多く語っていますが、アンセルフィッシュであるということはどういうことかについてかなり具体的に語っています。まずは「他人の成功を喜べること」を挙げています。「自分は他人よりも優れている」と考える選手は「自分はもっとプレイタイムを得るべきだ」と主張するようになり、そういう選手はいずれ問題になってくるから獲らない、能力がより低くてもそういう性格を持たない選手を探す、としています。GMと同じく人格・人間性を能力より優先していることが明言されています。

"Being able to enjoy someone else’s success is a huge thing. If I’m interviewing a young guy and he’s saying things like, “I should have been picked All-American but they picked Johnny instead of me,” or they say stuff like, “My coach should have played me more; he didn’t really help me,” I’m not taking that kid because he will be a problem one way or another. [...] I’ll find somebody else, even if they have less ability, as long as they don’t have that character trait."

 更に、Work Ethic(翻訳しにくい。「労働倫理」と訳すのが辞書通りでしょうが、高校・大学でバスケの練習をすることは日本語でいうところの「労働」ではないのでいい訳ではありません。「Work = やるべきことに対して、Ethic = 誠実に取り組む姿勢」というのがコアの意味でしょうが、二語の名詞の組み合わせで完全に翻訳するのは難しいです。特にここの文脈では……)がスパーズでは一番大事なことだとしていますが、ポポヴィッチの語る内容を読むと、これは「アンセルフィッシュであること」とほぼ同義であることがわかります。ポポヴィッチはこのフレーズを「自分第一でないかどうか」という意味だとしています。

"Work ethic is obvious to all of us. [...] The phrase that we use is seeing whether people have “gotten over themselves.”"

 これを判別するためにドラフトの可能性のあるプレーヤーが練習においてコーチや周りのプレーヤーに対してどう反応しているかを観察する、一日中自分のことばかり話しているような奴は人の話をよく聞かない、面会した時にこちらが話を聞く前に話しだすような奴は人から言われたことに対して価値を見出さない、自分第一でない人間なら自分に対する制限を受け入れられる、自分の役割を受け入れてプレータイムをあまり得られなくてもそれを受け入れられる、としています。

"Work ethic is obvious to all of us. We do that through our scouting. For potential draft picks, we go to high school practices and to college practices to see how a player reacts to coaches and teammates. [...]

When there’s a guy who talks about himself all day long, you start to get the sense that he doesn’t listen real well. If you’re interviewing him and before you ever get anything out of your mouth he’s speaking, you know he hasn’t really evaluated what you’ve said. For those people, we think, Has this person gotten over himself? If he has then he’s going to accept parameters. He’s going to accept the role; he’s going to accept one night when he doesn’t play much. I think it tells me a lot."

 ESPNの記事においてもこの点は強調されています。「優れた人格を持ち、自分第一でなく、チームプレーを理解し、チームメイトを応援でき、言い訳をしない」という特徴を持つプレーヤーを探すのに国籍には頓着しないとしています。

The traits he scouts for -- players with "character," who've "gotten over themselves, who understand team play, who can cheer for a teammate," who "don't make excuses" -- hold true regardless of nationality. 

 かつ外国の子供は合衆国内の有望株に比べてエゴが少なく、物事をより良く理解し、教えられたことをすごくよく身につけられるとしています。

 The international kids, he says, "have less [egos]. They appreciate things more. And they're very coachable."

 ではこうしたプレーヤーはどのようにしてその人格を身につけたのか。ESPNの記事では、アメリカの子どもたちは甘やかされて育っているのに対し、外国の子供は膨大な基礎練習を課せられるなど甘やかされてないから自分は特別だとは感じないとしています。

[...] when Pop looks at American talent he sees many players who "have been coddled since eighth, ninth, 10th grade by various factions or groups of people. But the foreign kids don't live with that. So they don't feel entitled," he says, noting how many clubs work on fundamentals in two-a-day practices, each lasting up to three hours. "Now, you can't paint it with too wide of a brush, but in general, that's a fact."

また、スプリッターがスペインで練習と自己犠牲とチームプレーを徹底的に叩き込まれ、言い訳を許さない厳しいコーチに教わったことで成長できたと語るエピソードも紹介されています。

Splitter's coach, Dusko Ivanovic, was sort of a Spanish Popovich, minus the charm and the legacy. "He was tough," Splitter says. "Everything was about work and sacrifice and about the team. No excuses. So I grew up fast."

こうして育てられたからこそスプリッターはプレータイムが少なくても我慢できる、とポポヴィッチはその人格を賞賛しています。

"He realizes that I might call his number zero times, and he's okay with that," Pop says. "He can do it because of the character he has, because of the way he grew up, because his method of operation is to be a coachable, hard-working individual who wants to help his team win. That's how he's built. That's why we love him."

HoopsHypeの記事によると、人格はそれまでの人生によって作られるものと考え、子供時代に厳しい困難を経験して、それを乗り越えてきたプレーヤーには内面的な強さが備わっていると考えています。子供時代に弟や妹を育てなければならなかったとか、片親や祖父母に育てられながら学校で良い成績を収めたとか、コミュニティの職務を果たしたとか、大怪我を乗り越えたとか、こういった話を手がかりにその内面的な強さがいかばかりかを探っており、この内面的強さはスパーズがプレーヤーに求める人格の重要な要素と見ているようです。

"We also look at how someone reacts to their childhood. Some of these kids, as you know, had it pretty tough coming up. [...] I like to hear situations where they had to raise a brother or sister, or where they had a one-parent family or a grandma or grandpa raised them and they still ended up doing pretty well academically in high school.

I like to see if they participated in some function in the community, or if they’ve overcome something or had a tough injury and came back. That sort of thing tells me what kind of character they have. I think all those things together tell me about their inner fiber. When I think about character I want to know about the fiber of an individual. I want to know what, exactly, they’re made of; what’s attached to their bones and their hearts and their brains. It’s all those things that form their character to me."

 簡単な人生を歩んでこなかったプレーヤーはスパーズが求める人格を備えている事が多く、そうした選手を積極的にチームに入れるというのはドラフトに限った話ではありません。別の記事でボナーさんが「スパーズのプレーヤーの多くは楽な選手人生を歩んでない。僕はそういうことがプレーヤーの人格を作り上げ、スパーズみたいなチームでプレーすることの有り難みをより理解させると思う」と発言しています。

 "I think there's a lot of guys with the Spurs who didn't have the easy way, one-and-done in college and then bam, you have a career," Bonner said. "A lot of guys on our team have had to go through the journey of maybe all four years of college, maybe the D-league, maybe overseas. I think that builds character and it makes you appreciate playing in the NBA and playing for an organization like the Spurs that much more."

ということで「人格・人間性が第一、能力はその後」という姿勢がGMとコーチ両方に共有されている事がわかります。そして人格・人間性を探るためのスカウティングをドラフトあるいはチーム加入前に入念に行っていることも先に見たとおりです。もし優れた人格がチームに入ったあとでも身につけられるものなら、それを能力より優先する必要も、入念なスカウティングを行う必要もないわけですから、人間性があとから身につく、チームに入ったあとで人が変わるなどということは滅多にあることではないとスパーズが認識しているのは間違いないでしょう。ESPNの記事において、ポポヴィッチは端的に「人はあるがままだ」と発言しています。(訳に確信がもてません。間違ってたら教えて下さい)

 "My belief," Pop says, "is that people am who they am."

 この項の要点を箇条書します。

  • スパーズはプレーヤーの人格・人間性をその能力・才能よりも重視する。
  • その人格・人間性の一面はユーモアがあることである。
  • 自分第一でなくアンセルフィッシュであることを重視する。
  • 困難を乗り越えられる内面的な強さも重要である。
  • 人格・人間性をあとから身につけるのは難しい。

 ちなみに、FIBAがYoutubeにポポヴィッチがスパーズのチーム哲学について講義する動画を上げており、一部のメディアで話題になっていたかと思いますが、この講義で語られていることはこの項で書かれているようなことが多いです。

デジョンテ・マレーはどのようなプレーヤーか

まず、どの選手についてもそうですが、最もわかりやすいのがDraftExpressのスカウティングビデオです(Strength編Weakness編)。DraftExpressのスカウティングレポートもわかりやすい。NBADraft.netのスカウティングレポートも簡潔かつ要点を抑えたものになっています。NBA.comの分析は最も簡潔なものといえます。一方で、カイル・テンプルトンというワシントン州で高校バスケのコーチをしている人物がマイナス面に焦点を当てた詳細な分析記事を書いています。分量が凄まじいので時間がない人には勧めませんが(というかよほどのマニア以外は読まなくてもいいです。ヒステリックな論調で、結論だけを拾うならDraftExpressなどと大きくは違いません)、内容的には充実したものだと思います。更に、コーチ・ダニエルというYoutube上で様々な戦術分析の動画をアップロードしている人物が、サマーリーグでのマレーのプレーを分析した動画をアップロードしており、これも良いものです。この項ではこうしたものを参考にしながらマレーの特徴を把握していき、これまで書いた内容を踏まえてスパーズが求める能力をどのぐらい持っているか、弱点は改善できるかを考えていきます。

(DraftExpressのスカウティングビデオは大概出来が良く信頼できるものですが、再生数を見るにStrength編だけを見てWeakness編を見ない人がかなり多いことがわかります。弱点が克服できるものかどうかはプレーヤーの伸びしろがどれだけあるかに直結していますし、将来的にNBAで活躍する選手になれそうかどうかということにつながりますので、気になる選手のものは両方見るべきだと思います)

まずは各種レポートで大体共通に語られる長所と短所を箇条書してみます。長所について。

  • PGとしてはかなり大きなサイズ・レングス。
  • 身体能力が非常に高い。
  • 素晴らしいボールハンドリングとフットワーク。
  • ペイントエリア・リムへと飛び込む能力が高く、接触プレーを厭わず、シューティングファールを引き出せる。
  • 攻め気になりすぎてないときは視野が広く、クリエイティブなパスを時折見せられる。
  • 身体能力と腕の長さと反応の速さがあるためスティール力があり、ディフェンス面でのポテンシャルは高い。
  • ガードとしてはリバウンド能力が高い。
  • まだ若く技術的に洗練されていない分伸びしろが大きい。

次に短所について。

  • ジャンプシュートの効率があまりにも悪すぎる。
  • 線が細くあたりに弱い。
  • 状況判断がかなり悪い。
  • 自分で点を取りに行くモードになると周りが全く見えなくなり、自制できずに無理撃ちを繰り返す。
  • 不注意かつプレッシャーをかけられると弱く、ターンオーバーが多い。
  • 現時点ではディフェンスは基礎ができておらず、横の動きについていけず比較的すぐ諦めがちで、ディフェンス力は低い。

 全体として、サイズや身体能力といった「素材」に対する評価は非常に高いです。一方で技術的な面に対しては、ボールハンドリングやフローターの精度に対する評価は高いですが、それ以外の技術、特にジャンプシュートとディフェンスという重要な技術に対する評価は非常に低いです。また、状況判断に対する評価も非常に低いです。最高の素材ですが、素材だけのプレーヤーでしかないともいえます。多くのモックドラフトやビッグボードで遥かに高い順位に位置づけられながらも29位まで落ちてきたのは、マレーにそれだけの大きな瑕疵があるからです。それでもワークアウトをしていないスパーズがマレーを指名したのは、もしかしたらより高順位の指名権を獲得してまで獲ろうとしていたのは、その瑕疵を修復できるという見込みがあったからでしょう。具体的に見ていきます。

まずマレーのフィジカルな側面について。既に見たようにレナードの獲得以降スパーズはサイズ・レングスのある選手を好んで指名する傾向がありますが、今回の指名はその傾向をますます明確にするものといえます。公式の公開情報では2014年のNike Skills Academyのものがあります。限られたデータしかありませんが、先に行ったようにシューズで身長が1インチ上がると仮定して(ポジション、シューズなしの身長、ウイングスパン、ウイングスパン/身長比)で表すと、(PG、6' 4"、6' 9.5"、1.07)となります。SGとしてみても平均以上のサイズがあります(2017/06/04 14:40 追記:DraftExpressの測定データのリンク修正)。また非公式の情報ではウイングスパン6' 11"、スタンディングリーチ8' 7"ともいわれています。これを正しいものとするならば、(PG、6' 4"、6' 11"、1.09)となります。PGでこれぐらいのサイズのある選手はそうはいませんし、最近のドラフト指名選手の中でとりわけサイズが優れているダンテ・エグザムデアンジェロ・ラッセルエマニュエル・ムディエイと比べても全く引けを取りません。

また、このサイズにして非常に身体能力が高いところはスパーズも評価しているところです。ドラフト直後のインタビューでビュフォードGMが「彼のどこが際立っていると思うか」と問われ「身体能力の高いガードであることだ。トランジションにおいて非常に優れている」と答えています。

 "He's an athletic guard. He's pretty good in transition."

 スパーズはベテラン中心のチームで、プレイオフでのサンダーとのシリーズは相手の身体能力に押し切られた形で負けた面もあるため、もう少しアスレチックにしたいというチームの狙いにも合致する選手だったようです。

"[...] but with the age of our team, adding a young kid with some extensive athletic ability and the ability to grow, I don't think there's any expectations that he's going to come in and catch our world on fire, but we like the opportunity to grow."

 彼の現時点でのリバウンド力やディフェンス面でのポテンシャルは、サイズと身体能力という彼のフィジカルな特徴・才能に依拠する面が強いといえます。

 視野の広さという点に関しては、自分で点を取りに行くモードなると全く周りが見えなくなる時がある一方で、そうでないときはよく見えているという極端な特徴を持っています。これはおそらく心理的な問題で見えなくなるか、状況判断が悪すぎるのであって、元々の視野自体は十分広いと思われます。スパーズが教えられないと考えている能力をある程度備えていると考えていいと思います。

彼の美点に数えられているボールハンドリングですが、特異なフットワークと相まってクリエイティブなドライブをするので印象は鮮烈ですが、一方でドリブルは高くややルーズでプレッシャーに弱く、NBAでは厳しいのではないかという印象も受けます。スパーズはパスファーストで1 on 1を仕掛けさせることはそうは多くないため、こうしたボールハンドリングのクリエイティビティを活かす局面はトランジション以外では多くないでしょう。

 短所について見てみると、シューティングの悪さ、線の細さ、状況判断の悪さはほぼすべてのスカウティングレポートに共通する評価です。前掲のビュフォードGMのインタビューでもマイナスの評価として唯一具体的に挙げていたのがシューティングの悪さです。

"He needs help finishing and from a shooting standpoint he's gotta get a lot more consistent and disciplined, [...]"

 ESPNのマイケル・C・ライト記者記事によると、マレーはドラフトの数日後にはサンアントニオに送りだされてイングランドACから指導を受けたそうです。また、その際シューティングとあたりの弱さを最大の弱点と見極めて、その克服を重点的な課題としているようです。

Just days after the Spurs drafted Murray they brought him to San Antonio to work with shooting coach Chip Engelland, the man responsible for Kawhi Leonards ascent as a sharpshooter. Murray and Engelland spent the next week and a half working as the summer league approached with the rookie throwing up countless shots. [...]

During Murray's short time with the Spurs, they've identified shooting and lack of strength as his main weaknesses to focus on improving.

 ウェイトトレーニングで筋力がつくのはあたり前のこととして、シューティングの改善はスパーズの育成で最も定評のあるものですし、既に見たように、彼らが改善可能と判断した選手についてはその実績や現在の能力はほとんど問題にしないので、ドラフト時点での「シューティングが悪すぎる」というマレーへの評価は長期的には無意味なものとスパーズは捉えているかもしれません。イングランドが彼のフォームをどう評価しているのか、どう修正するのか、レンジを限定するのか、それとも広げていくのか、こういったことに関する情報はまだでていません。

状況判断の悪さについて、主に言われているのはショットセレクションの悪さと例の「周りが全く見えなくなる」現象です。先に挙げたカイル・テンプルトンの記事(Kが言うのもなんだけど長いよ)で執拗に批判されているのがこれらの点とディフェンスでの判断の悪さ(ギャンブルプレーの多さ)です。ショットセレクションに関して、マレーの典型的な駄目なプレーとしてあげている例が「ロングツーを、オフザドリブルで、ディフェンダーが目の前に付いている状態で、ショットクロックがまだ25秒ある状況で」放ったケースです。これがどれほど悪いプレーか彼はわかってない、しかもシーズン終盤の33試合目でのプレーであり1年かかってもまるでゲームへの理解が深まっていないと批判しています。記事全体に通底しているのは「マレーはバスケットボールがどういうゲームか、どういうプレーが良いプレーでどういうプレーが悪いプレーか、効率性がどれほど重要か、こういう基本的なことをまるで理解していないし、1年かかってこの点で全く成長しなかった」ということです。基本的な理解がないから攻守両面で正しいプレーが出来ない、と。テンプルトンはこの責任をワシントン大のロレンゾ・ローマーHCが適切な指導を出来なかったことに帰しています。スパーズではこういうプレーは許されないでしょう。ゲームへの基本的な理解から具体的なケーススタディまで、徹底的に叩き込まれるものと思いますし、身につく見込みが無いとわかったら遠からず放出されるでしょう。先のESPNの記事のマレーの発言を見ると、こうした点についてサマーリーグの段階である程度教育されてきていることが伺えます。正しいペース、正しいショット、状況判断、スパーズのシステムの理解と適応、ディフェンス第一でないと試合にでれない、パスファースト、などおよそワシントン大でやってきたこととは真逆のフレーズが並んでいます。

"Absolutely, I'm learning a lot of things," he said. "I'm learning to play their system, learning to pace myself at the right pace, shooting the right shots, decision making. I'm just improving every single day starting with practice, shootarounds; just picking the coaches' brains, and trying to learn the system because the Spurs' system is a together system. But defense [is] first. [That] gets you on the floor. Other than that, it's a pass-first team. So I'm just trying to be a pro at the game, and get into the style of this team. It's not a lot to learn. I'm a basketball player. All it is is just listening, and going out and doing it. I'm just trying to take in whatever they say, and then go out on the court and do it." 

 スパーズが「状況判断は教えられる」と考えているのは上述の通りです。マレーには現状それがさっぱり欠けているわけですが、出来る限りの育成は行っていくでしょう。マレーがパーカーを置き換えるPGになれるかどうかはこの部分での成長次第といえるかもしれません。落ち着いていれば視野は広いですし、オープンでシュートをするときはフォームは悪くないという評価もあります。状況判断の改善で劇的に向上する余地のある選手といえます。

 ディフェンスは、出来る出来ないではなくやらなければ試合に出れないチームなので、嫌でも身につけざるをえないでしょう。ディフェンスの評価が極めて低かったアンダーソンを優秀なディフェンダーに育て上げている実績もありますし、ディフェンダーとしてのポテンシャルがあるマレーのこの面での育成はそれほど苦労しないのではないかという気もします。情報があまりなかったため項目を作れませんでしたが、おそらくディフェンスやボールハンドリングなどの他の技術的な要素に関しても、スパーズは教えられると考えているはずです。ある意味あたり前のことですけれども。

以上のように、プレーヤーとしてマレーに欠けている能力はいずれもスパーズが教えられると考えている能力であり、一方スパーズが教えられないと考えている能力を備えていることがわかります。しかしながら、スパーズが教えられない能力として決定的に重視するのは人格・人間性です。マレーはそれを備えているのでしょうか。

デジョンテ・マレーはどのような人物か

 NBA選手にまま見られるように、マレーも幼少期に過酷な経験を強いられていました。彼の母親は彼が6学年(だいたい12歳ぐらい)になるまで7年間刑務所に入れられており、その間父親もそばにおらず、祖母に育てられたそうです。

These are most of the same people he lived with until the sixth grade, when his mother finished a seven-year prison sentence for something Murray requested not be mentioned. He said his father was never around.[...]

“My lifestyle is different from a lot of kids around here,” said Murray, who moved back in with his mother in the sixth grade and said he has developed a better relationship with his father. “It was tough for me, not having a mom and dad. I was moving from house to house, living with my grandma who was raising 12 of us.

“It just puts a smile on my face because I came a long way.”

こうした環境にありながら、親類や周囲の人物(地元シアトル出身のジャマル・クロフォードも含まれる)の手助けを得て道を踏み外さずに成長でき、それによって実年齢以上に成熟した強いメンタリティを持つことができていると周囲に評されているようです。SAENのトム・オースボーン記者による記事がそういった彼の人物像について詳しく書かれているので、この記事を中心に見ていきます。

まず高校のコーチであったマイク・ベシア(ジャマル・クロフォードやダグ・クリスティ、ネイト・ロビンソンも指導していたそう)は、マレーが8歳か9歳の頃から知っているとし、過酷な生い立ちではあるがその経験が年齢以上にマレーを成熟させている、彼は自分の置かれた状況に言い訳しない、障害を耐えて乗り越える方法を模索してきて、そして優れた人格を作り上げてきた、彼を知るすべての人がそんな彼のことを賞賛している、と語っています。また、スパーズはマレーを高校の頃からスカウティングしており、こうした過去についてもちゃんと知っていたそうです。

“He had a tough upbringing, but it matured him beyond his years,” Bethea said. “He didn’t make excuses for the situation he was in. He found a way to withstand and get through all the obstacles, and it built him into the high-character kid he is now. Anyone who knows him speaks highly of him. He reminds me of Jamal Crawford, just a good kid.”

The Spurs, of course, know all about Murray’s past. In fact, he has been on their radar since his high school days, Buford said.

 また、マレーはやれと言われたことは嫌な顔ひとつせずやる、究極のチームプレーヤーだとも語っています。

“Dejounte will do whatever they ask him to do and he won’t do it with an attitude or a chip on his shoulder. He’s the ultimate team player.” 

大学のプレーをハイライトで見る限りでは、得点第一でパスよりも自分で突っ込んでいくプレーが目立ちますが、先に挙げたザ・ニュース・トリビューンの記事によると、高校時代はベシアの評価もマレー自身の自己評価も「アンセルフィッシュなチームプレーヤー」というものだったようです。

Murray said he gets his game — the unselfishness, the understanding of when to take over games and his work ethic — from his uncles, especially former Ingraham standout Terry Thompson. [...]

Bethea said. “It just sums up everything about him. He’s the most talented player on the court, but he’s also the best teammate on the court. And he has that type of work ethic you wish all your kids had."

マレーはサマーリーグ参加前のインタビューでも、仲間を信頼しアンセルフィッシュなプレーをることは最も重要なことだと理解しています。

Asked what he likes about the Spurs’ roster, Murray pointed to trust. He appreciates the unselfish play.

“That’s the biggest thing in the NBA,” he said. “If you can play together, you can go far.”

 大学のコーチのローマーは、マレーはとにかくバスケが好きで練習の虫であると語っています。

“He just has an innate love of the game,” Romar said of Murray. “You want to make him comfortable, so you say to him, ‘You want to go shopping? You want to get something to eat.’ But he says, ‘No, just show me the gym. You guys do what you want, and I’ll be fine there.’” 

 前の項で挙げたESPNの記事の引用からわかるように、より良いプレーヤーになりたいという意志が強く、ベシアが言うような、言われたことはなんでもやる・吸収するという姿勢がマレーの言葉の端々からも強く感じられます。

こうしたマレーの人格・人間性に関して、スパーズのインサイダーで発言があるのは、恐らく今のところベッキー・ハモンだけです。ハモンはマレーについて「強い精神力を持っている。指導を受けること、より良い選手になることを望んでいる」と評しています。

"He's a tough kid," Hammon said. "I think he's a tough kid mentally. He wants to be coached. He wants to get better. So we're gonna do that for him." 

 より良いプレーヤーになることへの強い意欲があり、そのためにコーチの指導をよくきいて練習に打ち込める、こうしたメンタリティを持ったスパーズの選手というとやはりレナードを思い起こさせます。SAENのレナード三部作の最初の記事の最初のフレーズは"How do I be good?(どうやったらうまくなれる?)"というレナード言葉であり、この意識への集中こそがレナードをNBA最高峰のプレーヤーの一人へと成長させた本質的な原動力とみなしています。

[...] just about anything seems possible for a player whose single-minded focus — How do I be good? — has carried him to the brink of stardom. 

 ポポヴィッチは、コーチの指導に対して一切口答えせず、言われたことはなんでもやるレナードの態度を極めて高く評価しています。

"(Leonard) has never said one thing to me or asked me one thing about 'Pop, why don't we ... ?' Or 'Pop, why don't you ... ?' or, 'Pop, can I ... ?'" Popovich said. "He just is unbelievably coachable and does whatever we ask him to do. He's a coach's dream, very honestly." 

 スパーズにとって、マレーがレナードほど"coachable"かどうかはまだわかりませんが、レナードに近い資質を持っていることは、周囲の評価や本人の発言から推し量れると言っていいいかと思います。

以上のことを踏まえますと、マレーは「困難を乗り越えられる内面的な強さ」「アンセルフィッシュさ」という、人格・人間性の項で挙げた重要な資質を備えた選手であるといえます。更に、アンセルフィッシュさを具体的に掘り下げて、「チームプレーを理解する」「言い訳しない」という資質は備えているといえます。「自分第一でない」「他人の成功を喜べる」という点に関しては、大学での実際のプレーぶりを見れば明確にそうだとも言い切れないところがあると思いますが(周囲の評価から考えるに、ローマーHCに得点第一で行けと指示されたのを忠実に実行しただけという可能性もありますが)、彼自身のチームプレーに対する認識についての発言や周囲の評価を見る限りでは、これらの資質もある程度備えている、少なくとも真逆の資質を備えているとはいえないでしょう。更に、レナードと同じ方向性の、練習やコーチングに対する誠実な姿勢を持っている"cachable"なプレーヤーといえます。

総じて、マレーはスパーズが求める人格・人間性をかなりの程度備えていると言えます。

結論

マレーはPGとしては例外的なサイズ・レングスを持ち、非常に優れた身体能力とクリエイティブな発想を持つ、今ドラフトではトップレベルの素材です。マレーに決定的に欠けている能力はシューティングと状況判断で、それらはスパーズが教えられると考えている能力であり、長期的にはあまり問題にならないと考えられます。サイズ・レングスと視野の広さという、スパーズが教えられないと考えている能力を備えています。人格・人間性というスパーズが最も重視する資質もかなりの程度備えていると考えられます。したがって、マレーはスパーズの育成・スカウティングの方向性に非常によくマッチするプレーヤーであると言えます。

彼がパーカーを置き換えられるだけのPGに成長できるかどうかは神のみぞ知るといったところですが、そのパーカーももっと上位での指名が予想されていながら1巡目の一番最後まで落ちてきたこと、イングランドがコーチに来るまでフローターとレイアップ以外は信頼できない非効率なシューターだったこと、サイズの優位やディフェンス面でのポテンシャルではマレーのほうが明らかにパーカーよりも上であることを考えれば、けして非現実なほど高すぎる目標とはいえないでしょう。

クイズ答えは何年後?できれば1年後、なるべく2年後までに……。