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だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

スパーズを中心に組織論的な話

レイカーズがスパーズから学べること

あまり更新できない、また古い話ばかりで悪んだけども、いくつかの話題が組み合わされることで別のものが見えてくることもあるので、ストックしてある情報からいくつかまとめて出します。

まずはESPNのバクスター・ホルメス記者による記事。記事タイトルまんまですが、新生レイカーズはスパーズを真似して安定したフロントというところからスタートすべきだ、という内容です。オーナーが代替わりして以降のレイカーズの低迷と混乱、そしてそれを精算する形でオールスター後にマジック・ジョンソンを新社長、ロブ・ペリンカを新GMに据え(この辺の話はNumber Webに宮地陽子氏が過不足なく書いているので改めて読まれたし)、再出発を図るレイカーズの最初のホームゲームがスパーズ戦だったこと(で、21点差の大敗を喫したこと)から構想された記事のようです。

ホルメスが書いているように、おおよそこの2チームはNBAにおいて極めて対象的なチームと見られている(ビッグマーケット対スモールマーケット、派手なプレー対基本的なプレー、スタープレーヤー対チームプレーヤー、極端な軋轢対不動の安定性……)、そうでありながら別々のやり方で長年NBAの最強豪チームでい続けている(いた)わけで、レイカーズが何から何までスパーズの真似をするというのは考えにくいし、またそうすべきでもないでしょう。ホルメスが主張しているのは、レイカーズがスパーズからなにか盗むとするなら、「成功はその構成員の協働の精神からもたらされる」というスパーズのアイデアであろうということです。文脈的には選手ではなくオーナーとフロントについての話です。ホルメスの主張は試合前のポポヴィッチへのインタビューに基づいたもので、そこから引用します。

「R.C.と私は長年一緒にやってきたし、その継続性は、敵意やその種のことなしに我々が素早い意思決定をするのに役立っている。("[General manager] R.C. [Buford] and I have been together for a long time. So, obviously, that continuity helped us make decisions quickly without animosity and that sort of thing.")」

「私はオーナーシップから物事は始まるのだといつも考えてきた。人々に自分の仕事を最後までやらせてやるオーナーはより大きな成功を収めていると思う。もし誰かが本来の自分の仕事じゃないことをして大成功しようとするなら、自分が関わる仕事はどんなことでもやってのけられると考えることが常に落とし穴になる、そしていくつかの組織はそうやって問題に巻き込まれてきた。我々はそのような問題を抱えたことはない。("Well, I've always thought it starts with ownership. I think owners who let people do their jobs end up being more successful in our business. And obviously, if someone has made a lot of bucks doing something else, the pitfall is always to think that you can do that no matter what business you might be in, and some organizations get into trouble because of that. We haven't had that problem.")」

「オーナーシップがあれば、我々は計画を遂行し、必要なときにオーナーに情報を提供し続けられる。パズルのピースが正しく配置されれば、マネジメント、コーチ、選手間のシナジーが生まれる。結局のところ、自分第一でなく、あるがままで上手くやっていけ、成熟した客観的な判断の仕方がわかってる人々が重要なのだ。全くもって人次第だ。("So ownership has allowed us to just run the program and keep them informed as we should. After that piece of the puzzle is in place, then it becomes a synergy between management, coaches and players. At that point, it's about people. It's about people that have hopefully gotten over themselves, that are comfortable in their own skins and know how to maturely and objectively agree and disagree. That's totally dependent on people.")」

自分第一でない、ということを非常に高く評価するというのは以前デジョンテ・マレーのドラフト指名とスパーズの育成・スカウティング思想で論じたとおりで、これは別に選手に限った話ではないということです。スパーズファンであれば特に目新しいところのない、ポポヴィッチが何かにつけてよく言うようなことだよなあ、という感じの話ではある。やや抽象的な語り口なのもいつものことで、じゃあスパーズにおいてオーナーやフロントの関係やあり方とは具体的にどういうものなのか、スパーズにおける協働の精神とは具体的にどういうものなのか。

スパーズのフロントとオーナーのあり方

スパーズのオーナーであるピーター・ホルトのリーダーシップについて、SAENのトム・オースボーン記者の記事。ポポヴィッチの「彼は賢いから自分がコーチでもマネージャーでもないことを分かっている(“Peter Holt is smart enough to know he’s not a basketball coach or a manager,”)」という言葉が端的な表現だと思います。ホルトがこれまでチーム運営についてしてきた仕事は、信頼できる優秀な人材(ポポヴィッチビュフォード)に然るべきポジションを与える、設備やスタジアムなどの十分なリソースを用意する、そしてことが動き出したら一切干渉しない、ということのみと言えます。そして自分はスポットライトが当たる場所を避け続ける。スパーズにおける自分第一ではないことを良しとする文化は、まずもってオーナー自身が体現しているといえます。そしてまたこのスタンスをオーナーになって以降貫いてきたことが、スパーズの長期に渡る安定した組織運営の土台になっています。初優勝した1998-1999シーズンの序盤で負け越し、通常のチームであればコーチとしてキャリアの薄いポポヴィッチがクビになってもおかしくない状況でも全く動じなかったことは、この手の記事では頻繁に語られることです。

フロント陣の関係構築の仕方について、USA Todayのサム・アミック記者の記事。ウォリアーズのボブ・マイヤーズGMが携帯電話に保存しているポポヴィッチの言葉が載せられていますのでこれを引用します。

「どのような経営者、GM、コーチであれ、オーナーとの間にシナジーが作られなければならない。 [...] 信頼があるところにシナジーは生まれる。そこに壁もテリトリーもない。あらゆることが議論され、公平に扱われる。批判は歓迎され、批判するものがいればこそ、素晴らしいの組織となるのだ。全ての人にそうした自由な雰囲気があることが組織を良く機能させる。それはドラフトから細かい戦術論まであらゆることに言えることだ。経営者やGMやコーチだけの専権事項というようなものはあってはならない、さもなくばカルチャーなど作られない。少なくとも、それで我々は上手くやっている。(“A synergy has to form between the owner, whoever his president is, whoever the GM is, whoever the coach is, [...] There’s got to be a synergy where there’s a trust. There (are) no walls. There is no territory. Everything is discussed. Everything is fair game. Criticism is welcome, and when you have that, then you have a hell of an organization. That free flow through all those people is what really makes it work. And that includes everything from draft to Os and Xs. Nothing should be left to one area – only to the president, only to the GM, only to the coach – or the culture just doesn’t form. At least that’s what’s worked for us.”)」

オープンでフェアな意見交換を各人が行い、信頼関係を構築していく、そうやって全ての物事を進めていくという趣旨になるでしょう。しかし気をつけなければならないのは、だからといって立場が上のものが組織の行動をコントロールするようなことはしないということです。先に書いたように、オーナーは「自分がコーチでもマネージャーでもないことを分かっている」ため現場で行われていることには一切介入しません。また、ポポヴィッチは社長でもあるのでGMよりも立場は上で、例えば人事に対して意見を強要したり、最悪GMをクビにすることなどもできるはずですが、ポポヴィッチビュフォードを信頼し、人事において彼の決定に対して干渉しません。以前レナード対ヒルのトレードにおいて、ポポヴィッチが最後まで反対していたものの、最終的にはビュフォードの意を飲んでトレードを承諾した経緯があることを書きました。また、ビュフォードのチーム構築のビジョンはかなり長期に渡るもので、例えばオルドリッジの獲得計画はその3,4年前から計画されていたものであることを後にオーナーが明かしていますが、それを許容してチーム作りや戦略構築をできるのはフロント陣やオーナーの強い信頼関係があってこそでしょう。テリトリーのない自由な意見交換を良しとする一方、各人の職分はかなり尊重されているといえます。

反面教師:ニックスの例

スパーズ的なオーナーやフロントのあり方を良しとするならば、おおよそそれと真逆のことをしているのがニックスです。ニックスについて、比較的最近ラリー・ブラウンが「フィル・ジャクソンがそんなにトライアングルをやらせたいんだったら、自分でコーチしろ」と発言したことについてESPNのイアン・べグリー記者の記事。ブラウンは「コーチを雇って自分の好みの一定のやり方でやらせる、ドラフト指名した選手にも自分の好みの一定のやり方でやらせる、なんでそんなことができるのか理解できない。("I can't figure out how you can hire a coach and tell him how you want him to play. I can't figure out how you can draft players for a coach that you know coaches a certain a style, and has been successful doing that style, and get him to play a style that you feel comfortable with,")NBA史上最高のコーチの一人がいるならそいつにコーチさせればいい。トライアングルがやりたいなら、そいつがコーチになって、全員にやり方を教え、それが上手くできる選手を揃えればいい。("Then you coach. You're talking about one of the greatest coaches in the history of our sport. Let him coach. If he wants to do the triangle, put it in, let him coach it, and then teach everybody around and get the players that are comfortable playing it.")」と割とキツめの(でも真っ当な)批判をラジオで行ったようです。

ニックスはシーズン前半はトライアングル色のあまりない戦術で戦っていたようですが、後半はおそらくジャクソンの影響でトライアングル色を強めたようです。デレク・フィッシャーはだんだんトライアングルを目指さない方針へと変わっていったかと思いますが、ジャクソンとの関係がそれでこじれて、結果的に昨シーズン後に解雇されました。トライアングルに関してはカーメロ・アンソニーかデリック・ローズか、「それがいいか悪いかの問題じゃなく、そもそも選択の余地がない」と、事実上強制であることを示唆していたかと思います。

ジャクソンは社長であって、GMでもコーチでもありません。コーチや選手との信頼関係の構築に失敗しているのはフィッシャーやアンソニーとの関係から明白だと思います。事実上コーチを自分の傀儡として扱っており、人事においてGMの領分を冒しています。ポポヴィッチの、組織がどうやって失敗するかについてのコメントに「もし誰かが本来の自分の仕事じゃないことをして大成功しようとするなら、自分が関わる仕事はどんなことでもやってのけられると考えることが常に落とし穴になる」というものがありましたが、まさにその落とし穴にはまっているという感があります。オーナーのジェームズ・ドーランの現場介入に関しては周知のとおりで、ジャクソンが来てからはあまり動きがありませんが、仮にジャクソンが社長の座を降りたとしても、およそスパーズ的な観点で良しと言えるようなチームにはならなそうです。

2月のNYでのスパーズ対ニックス戦前のポポヴィッチへのインタビューがNewsdayのロジャー・ルービン記者の記事に載っています。アンソニーのトレード騒動やオークリー出禁騒動で揺れていたニックスの現状批判の言葉を記者は引き出そうとしたみたいですが、それに対しては「自分の問題じゃないから」とかわされているものの、自分がGMとコーチを兼任していた時代を振り返って、それはとてつもなく大変だった、全てをやろうとすることは難しいと発言しています。あらゆることを自分でコントロールしようとして全てが上手くいかない状況のジャクソンに対する遠回しなアドバイスと見て良いと思います。

スパーズ的な組織のあり方が最も理想的であるということを前提とするならば、ニックスは失敗すべくして失敗していると言えます。他にも長期にわたって弱小チームに落ち着いているようなチームも同じ轍を踏んでいるところが多いかと思います。では、果たしてスパーズ的な組織のあり方は理想的と言えるのかどうか。Kは比較的覚めた目線のスパーズファンですが、やはりベストだと思います。客観的な評価としても、ESPNのマネジメントランキングで今年も全部門で1位でした。ほぼコンセンサスと言っていいのではないでしょうか。

スパーズの組織論的な話は、デジョンテ・マレーのドラフト指名とスパーズの育成・スカウティング思想でKが書けることは8割方書いたかなと思っていますが、今回の文章と合わせてだいたい書ききったかなあと思います。なおも書くとしたらすんげー細かい話になりそうだが……。