だいたいNBA

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レブロン・ジェームズのフリースロールーティンの変遷と苦闘

ESPNのトム・ハーバーストロウ記者による記事。前に取り上げた同記者の記事の続編というべきか。

今期のレブロンのFT%は.674で通算の.740に比べて明らかに低い数字で、18種類もの異なるルーティンをシーズン中に試すなど、シーズン通してリズムをつかめなかったようです。レブロンはそもそもキャリアを通じて頻繁にフォームやルーティンを変える方で、これはNBA選手としてはかなり珍しく、FTがすごく上手い選手もすごくだめな選手も両方指導してきたスタン・ヴァン・ガンディは「普通の選手はキャリアを通じて1回か2回しか変えない。下手な選手はもっと変えるけど」と発言しています。レブロンはFTシューターとしてはごく平均的な選手ですが、なかなかFT%が向上しないことやリズムが掴めないことへの焦りからか非常に頻繁に変えている。

ある元チームメイトはこれをイップスと認識していますが、ハーバーストロウもこれに同意しています。FTとイップスについては前に取り上げた記事を読むのがいいでしょう。FTが極端に不得意な選手は、手がでかいとか背が高いとかの物理的要因や練習量が少ないからそうなっているわけではなく、心理的な要因によって入らなくなるのだということをハーバーストロウは主張していますが、それが正しいなら、ビッグマンでもなければまずまずの3P%を残しているシューターであるレブロンがFT%を異様に落としていることの説明にもなります。それと同時に、心理的な要因で成功率を落としているのであれば、様々なフォームやルーティンを試みても解決しないということになります。タイロン・ルーHCはレブロンに対して何も変えるべきではないと言っているようです。

FTに対する自信の欠如は実際のプレースタイルにも影響を及ぼしているという分析も行っています。まずテクニカルスローを他の選手に任せるようになりました。さらに、試合終盤の点差が詰まっている状況で大幅にコンタクトプレーを避けるようになってしまっていることを明らかにしています。レブロンはデビュー以来、残り試合時間1分以内でワンポゼッションゲームの状況おいて1シーズン平均18本のFTAを獲得しており(最小でも11本)、昨シーズンも15本獲得していましたが、今期はそれが僅かに2本と激減しています。今期は上記の状況において13本のシュートを打ちそのうち8本が3P、13本のシュートのリングに対する平均距離は19.4フィートで、昨シーズンは平均10.8フィートと倍近く違います。これはつまりこのような緊迫した状況において、プレッシャーに耐えてFTを2本沈められるだけの自信がなくなってしまったために、果敢にリムを攻められなくなっている事を示します。レブロンはリム付近での得点力が抜群に高い選手なので、ファールを恐れてインサイドに飛び込めなくなることは、キャブスにとっては大事な場面で大きく得点効率を下げる要因になります(今期の3PのみのeFG%は.545なので、確率通りに決められるならFTを貰ったほうがまだ得点期待値が高いということになります)。

ハーバーストロウが書くように、ルーティンをあれこれ試すことがFT%の改善につながるとは思えません。良いシューターは常に一定のリズムで打っており、例外を知りません。レブロンに限ってその例外ということはない、というのは数字が示すところです。レブロンは基本的にジャンプシュートが下手な選手ですが、3Pはキャリアを通じて数も率も長期的には改善しており、FTが上手くいかないのは技術的な問題ということではないでしょう。また、レブロンはビッグマンというほどのサイズはありませんし、昨期と今期でいきなり身長が伸びたり手が大きくなったりしたわけでもありませんので、FTの巧拙が打点の高さや手の大きさといった物理的な要因に由来するという考え方も間違いでしょう。FT%が極端に悪い選手はイップスであり、これは心理的な問題だから練習でも解決できない、というハーバーストロウの主張はレブロンという材料を得たことで説得力が更に増したと思います。

FTについてはもう何十年とあれこれ議論がされ続けている話題だと思いますが、ハーバーストロウの一連の記事は大変優れたものでその決定版というべきものではないかと思います。FTに関する手がでかいから論や練習不足論は事実からみても根拠が薄く、心理的な要因に根拠を求める考え方の方がより説得力があります。「お前は生まれつきFTが下手なんだ、もっともっと練習しろ」という主張が下手なシューターを更に心理的に追い詰めている面すらあるので、手がでかいから論や練習不足論のような古典的な考え方は積極的に放棄すべきではないかと思います。