だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

アダム・シルバーがOne-and-Doneルールについて考え直す必要があると言明

さて、これをどう捉えるべきか。これに関する記事は色々ありますが、NBA.co.jpSBNationのクリスチャン・ウィンフィールド記者の記事Yahoo Sportsのベン・ロウバック記者の記事あたりを抑えておけば一応足りそうです。

ウィンフィールドの記事は現地5月31日のFox Sportsの番組で受けたインタビューを元にしており、NBA.co.jpの記事は現地6月1日のNBAファイナル第1線前の記者会見での発言を元にしている点で異なりますが、話している内容はだいたい同じでしょう。1&Dルールは大学への腰掛けが前提になるため、学業面での悪影響やドラフトに向けて自分のプレーを見せることが目的化しチームを勝たせるような意識がプレーヤーに培われず大学チームにとって悪影響なこと、プレーヤーにとっては実質半年そこらでは大して成長できないこと、NBAチームにとってはプレーヤーの成熟に役立ってないと認識していることなどを理由に「1&Dルールは機能していない」との認識に至ったようです。シルバーは「我々の立場を考え直している(I'm rethinking our position.)」と発言しましたが、ウィンフィールドは、シルバーが従前から20歳に最低年齢を引き上げることを主張していた事を踏まえ、「2&Dの推進をやめるのでは」と認識していますが、これは必ずしもそうではないでしょう。our positionとは1&Dルールを採用している現在のNBAドラフト制度ないしそれが成功しているという今までの認識ではないかと思います。ロウバックの記事に適切に引用されているように、今回の新CBAの交渉は経済的な問題を解決することが第一で、それが終わったら年齢制限の問題に議論を移そうということだったようです。1&Dルールは上手くいっていないとういうことを共通の認識として、もっとより良いものに変えるためにNBAとNBPAでお互い知恵を絞っていきましょう、そのためには大学関係者も議論に参加してもらって議論を深めましょう、というのがシルバーの目指していることでしょう。そしてNBA.co.jpの記事にあるように、NBA側として20歳への引き上げの立場は崩していないものと思われます。

シルバーは「私は大学バスケの大ファンだが、プレーヤーの一番大事な時期にその成長を阻害させていないか心配("Selfishly while I love college basketball and I’m a huge fan of college basketball, I worry about potential stunted development in the most important years of these players’ career,”)」「不幸にも彼ら(注:1&Dプレーヤーのこと)の最大の関心事はNCAAトーナメントで勝てるかどうかではなく、NBAドラフトのすすめるかどうかだ。だから、自分のスキルをどれだけ見せられるか、どれだけプレータイムを得られるか、そしてもちろん怪我しないかどうか、そんなことを心配しなくてはならない。あまりよろしくはないね。("their biggest concern unfortunately becomes not whether they win the NCAA tournament, but whether they drop in the NBA draft. So then they have to be worried about how their skills are showcased, how many minutes they get, of course whether they get injured. So, it’s not a great dynamic.”)」などと発言していますが、1&DルールはNBAとNBPAの合意で作ったのであって、本来NCAAは1&Dルールの当事者ではありません。NBAに巻き込まれる形で混乱している大学バスケの状況を根拠に1&Dルールは上手くいっていないというのは卑怯な物言いで、シルバーは「NBAが望んで作った1&Dルールが、NBAにとって上手くいっていない」ということを正しく認識すべきではないかと思います。これは紛れもなくNBA自身に全ての責任があるNBA自身の失政なのだ、ということを。NCAA会長のマーク・エマートが1&Dルール廃止論者であることは心強いですが、高卒ドラフトが復活すると大学に有力選手が来なくなり大学バスケの弱体化が進むため、有力選手の大学在籍期間を伸ばすために、基本的に他のNCAA関係者は最低年齢引き上げ論者のほうが多いと思われますので、「話し合いのテーブルには有力大学コーチとアスレチックディレクターたちも参加すべきだと思う( “I think the top college coaches and (athletic directors) should be at the table.")」というシルバーの考えは、最低年齢を引き上げるための援護を増やす思惑があるのではないかと邪推してしまいます。

シルバーは対立する年齢制限問題について「我々は原点に立ち戻って「バスケットボールにとって何が最も利益になるのかを問わねばならない(I think it’s something that we’ve gotta step back [and ask] ‘What’s in the best interest of basketball?’)」と語っていますが、少なくとも2&Dルールは大学バスケもNBAのレベルも落としてしまう可能性が十分あるとKは認識しています。詳しくはNBAドラフトにおけるいわゆるOne-and-Doneルールの成立経緯と是非論で書いたので暇な人はそちらをどうぞ。英語圏も含めて、多分WEB上で読めるものとしては1&Dルールについての最も包括的な論考だと思います。代表的な代替的ドラフト制度の合理性をここまで詰めて検討し、2005年CBA以前のドラフト制度だけが合理的なドラフト制度であるということを論じたものは、Kの知る範囲では読んだことがありません。特に、シャシェフスキー案(高卒でドラフトエントリーを認めるが、ここでエントリーしないときは少なくとも2年後のドラフトまではドラフトエントリーできない)やMLB方式が、インターナショナルプレーヤーの立場から見ると全く合理性がないということを指摘している記事は読んだことがありません。先のロウバックの記事も、最後に「MLBと似た方式のドラフト制度もアリなんじゃないか」みたいなことを書いてますが、いかにもアメリカ的というか、自国中心主義的で視野が狭いなあと思います(結構いますこういう記者)。「プロとそのステップとしての大学」というアメリカンスポーツの構造を共有していない地域には合理性がないんですけどね。手前味噌ですが、Kが書いたものはNBAドラフト制度論としてはおそらく最先端のものの一つだと思います。読んで損するものではないと思います。とか言って他に同じようなことを書いている人間がいたら恥ずかしいですが……知らぬが仏、たまには調子に乗っとこう。