だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

ファンの忠誠度、NBAコーチの年齢、コーチのなり方、ウェストブルックはトリプルダブル狙いのプレーをしていたか

ブックマークの在庫処分。

どのチームのファンが最もチームへの忠誠心が強いか

HSACのニコラス・ヒースの記事。このレポートではファンの忠誠心を測る方法として、チームの勝率とスタジアムの収容率を1991-1992シーズンから取り両者の相関を調べています。相関が強いチームはチームが勝っているときはスタジアムまで見に来るけど負けているときは見に来ないファンが多く、相関が弱いチームはチームが勝っていようが負けていようがファンがスタジアムに通いつめているということになります。相関の弱いチームのファンは忠誠心が強く、相関の強いチームのファンは忠誠心が弱いということになります。本拠地やスタジアム移転を行ってサンプルサイズの少ないサンダー、ネッツ、マジックは除かれています。

結果はリンク先をみてもらえばいいですが、なんと言ってもマブスがすごい。キューバンが買収してスタジアム移転してからチーム成績に関係なく毎年100%に近い収容率を記録し、相関係数はマイナスにすらなっています。途中1回しかプレーオフ出場を逃していないのでファンも見に来る気になるというものですが、今シーズン買収以来初めて勝率が5割を切って、シーズン終盤はタンクしにいったにもかかわらず、収容人数811366人で収容率は811366/(41*21146)=.936と高い数字を記録しており、本当にファンが熱心なのだと思います。まあ、昨シーズンの成績が来シーズンのチケット売上に影響する可能性はありますが。また、ペリカンズも非常に相関が低い。ペリカンズは成績もけして良くなく、ニューオーリンズ都市圏もNBA全体でかなり人口の少ない方だと思いますが、にもかかわらず高い収容率を記録し続けています。一方で最も相関が高いクリッパーズについては、うん、まあ、でしょうね、という。

分析の問題点も挙げています。一つには、ファンの献身性を示す行動としてTVで試合をみたり、グッズを買ったり、ニュースを熱心に追ったりというものもあり、スタジアム観戦だけを問題にしていいだろうかということ。もう一つに、スタジアム観戦を左右する要因として、都市の人口、平均所得、スタジアムの立地、スター選手の存在など勝利以外の要因があること(3番目に相関が低いニックスはアメリカ最大都市、最も高い所得、最良の立地という条件を兼ね備えている)。逆に、ホームの観客が多いことでチームが奮起して勝率が上がるというロマンチックな因果関係もありうる(でもこれはファンの力というのを過信しすぎ)。Kの認識では、第一の要因については、そうだとしてもそこから「忠誠心」というものをどうやって計ったらいいか、分析方法がよく分かりません。そういったものの単純な数を問題にするならば、それは単純にファンの絶対数が反映されるだけです。TV視聴率などは、ファンの絶対数が少ないチームは低くなるし、多いチームは高くなるだけです。つぎ込んだお金の額を問題にするのも、所得にほぼ左右されるでしょうが、金を使うほど忠誠度の高いファンかというとそういうこともないでしょう。可処分所得に対する支払い額率というのも考えられますが、これは逆にファンの所得の多いチームほどファンの忠誠心が低いという結果になりそうですが、これもそれでいいとは思いません。第二の要因について、人口や立地を考える上では、レイカーズクリッパーズが全く同じ条件なのに全く異なる結果になるのだからそこはほとんど影響がないのではないか。また、上記の条件をほとんど備えてないように見えるペリカンズの相関が歴史的に低いことをどう説明するか。また、単純に都市圏人口と収容率を比べてみても、それほど相関の強さに関係がないように思われます。シャーロットやミルウォーキーなどはNBAでかなり小さい方でしょうが、収容率はボストン、ロサンゼルス、マイアミ、シカゴ、ヒューストンなどのずっと大きな都市のチームよりも高いわけですから、人口の絶対数・ファンの絶対数・ファンの忠誠心は案外バラバラなのではないかと思います。要素をあれこれ増やしたり複雑にしすぎるとかえってツッコミどころが多くなります。個人的には、歴史的な勝率と収容率の相関を取るというのはシンプルながら結構いい方法だと思います。

この分析は他のスポーツにも使えます。NPBJリーグ、BJ(B)リーグなどでやってみても面白いかもしれません。暇な学生はレポートのネタに真似してやってみてはどうでしょう。

HSACはハーバード大学の学生が組織して運営しているものですが、たまに面白い分析が出てきます。

NBAコーチの平均年齢が上昇傾向にあるのは何を意味するか

同じくHSACのヘンリージョンソンの記事。前編後編。前編でNBAコーチの平均年齢が上昇傾向にあることを確認し、後編でコーチの年齢と成績の相関を調べています。結果はなかなか興味深く、コーチの年齢と成績に正の相関があり、年齢の高いコーチの方が成績が良くなるようです。ただし生存バイアスがあり、高齢のコーチは優秀だから高齢になっても続けられるのであり、高齢だから優秀であるというわけではない。そこで経験年数を調整すると、逆に年齢が若いほど良い成績を残すという結果が出てくる。ポポヴィッチなどの長期に渡って成功したコーチを除いて、1年目のコーチの成績を見ると、年齢は成績に対して優位に負の相関を示す。つまり、若さはコーチの能力にとってプラスの要因になるということのようです。若いコーチの方が柔軟で頭の回転が早く、データ解析などにも融和的かもしれません。しかし、その上で経験年数には年齢の上昇が招くマイナスの影響以上のプラスの影響があることもここからわかります。優秀なコーチが若いうちから実績を残し、淘汰を乗り越えて長期に渡って経験を積み上げていくことで「名将」が生まれる、ということでしょうか。NBAコーチの全体的な高齢化は、そうした経験の力が自然に現れてきているものと言えるのかもしれません。

NBAコーチはどうやって選ばれるか

Business Insiderのスコット・デイビス記者の記事。データから見れば上記のように「優秀な経験の多い人物が選ばれやすい」などと考えることができるかもしれませんが、ジャーナリストの調査が示すのは「人の繋がり(connections)」という非常にアナログな要因こそが重要だということです。経営者は自分の知らない人間を雇わない、という大変身も蓋もない事実を教えてもらえる記事です。その繋がりの出来かたは多種多様、とにかく自分の仕事を一生懸命こなしていたら周りの優秀な人に引っ張り上げてもらえた、もとNBAプレーヤーだった、高校の教え子がどんどんNBAで活躍してそれでスカウトされた、親のコネ。色々ありますが、良い仕事をしていれば必ず自分を見つけてくれるなどとは限らないが、結局優秀で高い評価を受けなければNBAでコーチの仕事をし続けることは出来ない、最終的にはやはり能力に返ってくるというのが多くのコーチたちの結論のようです。

ウェストブルックはトリプルダブルのためにスタッツ稼ぎのプレーをしていたか

これもHSACのオースティン・ティミンズの記事。これは面白いよー。この件に関してはKも以前検証していますが、少なくともリバウンドに関してはスタッツ稼ぎのプレーをチームぐるみでしていたことは間違いないと考えていますが、ティミンズはプレーの性質を見るのではなく、Play by Playからプレーの間隔を調べることで、ウェストブルックがトリプルダブル狙いのプレーをしていたかどうかを検証しています。

出てきた結果は見事で、10リバウンドないし10アシストが近づくと、次のリバウンド・アシストまでの時間がはっきりと短くなるという事実を発見しています。つまり、2桁達成が近づくとそれを達成しようと急ぐ心理がプレーに反映されるということです。また、ゲームの残り時間が少なくなるほどスタッツを稼ぐ間隔が短くなることも示されています。さらに、大差勝ちや大差負けの勝敗がだいたい決まったゲームの場合は、リバウンドについてはスタッツ稼ぎのプレーをする傾向が弱まるようです(アシストは同じ状況でも変わらず稼ぎプレーをする)。これはなんでしょう、アシストは稼ぎづらいので状況に関わらずできるだけ稼ごう、リバウンドは稼ぎやすいからそこまで頑張らなくていいや、という心理でも反映されているのでしょうか。また、リバウンド・アシストが10を超えると、次のリバウンド・アシストまでの間隔がそれまでと比べて明確に長くなるということも発見しています。つまり、2桁達成したからもう頑張らなくていいという心理がここに現れていると言えます。

個人スタッツはチーム全体の影響を受けるので個別のプレーヤーの能力を正確に測るには問題がある、個人スタッツの分析はより細かくより具体的で基礎的なデータを見ることで個々のプレーヤーの(能力じゃなく)個性を知るために行うほうが有意義で面白いのでは、というのが最近のKの考え方ですが、この分析は基礎的なデータからプレーヤーの心理にまで迫るという、スタッツ分析でも最高に面白い部類の成果です。ウェストブルックが己の数字のためにプレーしていることがこうしてまた証拠付けられて、いやー、リスペクトが減りますなー。