だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

日本語版Wikipediaに項目のあるNBA選手のウィングスパンの数値を信用してはいけません

先日ラスベガスで例の銃乱射事件があって、ラスベガス出身であるレイカーズのスティーブン・ジマーマンが心を痛めている、というニュースを読んで、あれ、ジマーマンって別のチームにいなかったっけ?と全く別のことに気が向いてしまう。なんとも注意散漫な。それで検索かけたところなんと日本語版Wikipediaにジマーマンの項目があって、随分マイナーな選手の項目があるんだなあ、と感心しつつ前の所属ってどこだっけとクリックし、なるほどマジックだっけか……と目的の知識を得る前にとんでもない情報が目に入ってひっくり返ってしまいました。

ウィングスパン7' 7"!?んなアホな!!

このブログで比較的よく使用するデータにDraftExpressのポジション別身体測定値の平均値のデータがありますが、ドラフト指名されたCの平均値は身長(靴込)が6' 11.25"でウィングスパンが7' 2.25"でスタンディングリーチが9' 2.25"程度で、7フッターの選手のウィングパンはだいたい7' 2"から7' 3"程度というのがNBA愛好家の常識的な認識でしょう。目視で正確に認識するのは難しいですが、7' 5"を超えるぐらいで見た感じにも腕が長いという印象を抱かせるのではないでしょうか。7' 7"ともなると相当腕が長い印象を受けるはずです。ジマーマンのプレーする姿をみて、NBAのCとして特別腕が長いという印象を受けるでしょうか?Kは、長いっちゃ長いかな、とは思いますが明らかに桁外れのウィングスパンという印象は全く受けません。なぜ腕が長いように見えないか、当然ながら、実際にそこまで腕が長くないからです。ジマーマンの身体測定値は2016年のNBA Draft Combineを基準にすると身長が6' 11.75、ウィングスパンが7' 3.25、スタンディングリーチが9' 0.25"で、平均的なCと比べて特別サイズがあるわけではないのです。常識的な、よく見るサイズのCです。7フッターでウィングスパンが7' 7"に達する選手と言えばハッサン・ホワイトサイドで、NBAでおそらく最もウィングスパンがあるルディ・ゴベールが7' 8.5"。ウィングスパンの大きさで受ける印象が強いであろうビッグマンを他に挙げると、アンドレ・ドラモンドが7' 6.25"、アンソニー・デイビスが7' 5.5"、ダマーカス・カズンズが7' 5.75"、デアンドレ・ジョーダンが7' 6"といったところです。こうした数字を見ればいかに7' 7"というのが常識はずれの異常な数値かよく解ると思いますし、そして見た目にそのような印象を与えないジマーマンという選手に似つかわしくない、目にした瞬間「んなアホな!!」とKが思ってしまう数値であることもご理解いただけるでしょう。

そんなにあれこれWikipediaをあら捜ししたわけではありませんが、他の選手でも同様の事態になっています。前回の記事でちょこっと名前を出したアンテ・ジジッチという選手の項目があり、この選手のウィングスパンは7' 6"と記載されています。ヨーロッパの選手については、合衆国のように身体測定をする機会が多くないのでそもそも身体測定値のソースがないことも多いのですが、ジジッチの場合は2016年のEUROCAMPでの7' 2.5"というソースがあります。また、キャブスのサイトの10 Facts and Stats About Ante Zizicというページではウィングスパンについて7' 3"という記述があります。この選手のウィングスパンも、我々のよく知る7フッターのCの常識的な範囲に収まるものであるということになるでしょう。7' 6"というのは明らかに実態からかけ離れた数値です。

ジマーマンもジジッチも、英語版のWikipediaのページにはウィングスパンについて記載がありません。また、どう検索しても彼らのウィングスパンが7' 7"だとか7' 6"だとかという説の根拠になるようなものを見つけることができませんでした。現に、日本語版Wikipediaにはこれらの数字のソースは示されていません。どちらの項目もエリクセンという人が作成し、この人だけが更新しています。Kはこのエリクセン氏が捏造した数値であると考えています。

身体測定値は大変明快な数値である一方、ソースによってばらつきがあります。調べてみて様々な数値が出てくるときは、基本的にはNBA Draft Combineのデータを参照すべきです。多数のドラフト候補が参加し、同一の測定方法で測られるため公正な比較が可能です。またstats.nba.comに掲載され、公式データとして参照できます。NBA Draft Combineに参加していない選手に関しては、測定された機会が明確な公式の公開情報(先述のAdidas EUROCAMPやNike Skills Academyなど)に依拠すべきでしょう。

選手のウィングスパンを調べたければ、「選手名 wingspan」で英語で検索すれば事足ります。データが存在すればすぐに見つかりますし、データがない、信用できそうなデータがないというときでも、「この選手のウィングスパンについて信頼できるソースがないな」ということはすぐにわかります。数分かければ目処がつくことです。Wikipediaの執筆者は、信頼できるソースがあればそれを根拠にして書けばいいし、ソースがなければ書かなければいいのです。調べる時間・体力がないなら、そのときも書かなくていいのです。しかし、調べもせずいい加減な数字をでっち上げる、ましてNBAの常識的な知識があるなら明らかに異常と分かる数字を創作するのは馬鹿馬鹿しい行為です。そのような情報は間違っており、無用かつ有害であり、無い方がはるかにマシです。マイナーな選手の項目があるのは大変良いことですが、日本語版Wikipediaの執筆者はこのような間違ったデータは削除するか、正当な根拠があるならそれを注で示すべきでしょう。身長体重は各チームの公式サイトに記載があるので間違いようがありませんが、ウィングスパンはそうではないので、日本のNBAファンがこういった間違った(日本語版にしか存在しない)数字をWikipediaで知ってそれを信じてしまうようなことにならないようにしてほしいところです。現状では、日本のNBAファンは日本語版Wikipediaに記載された選手のウィングスパンの数値を信用してはいけません。

(10/11 23:55追記)

エリクセン氏の作成した項目には常にウィングスパンの記載がありますが、ほぼ全てで数値が間違っています。何故かたまーに当たっているのもありますが(ルーク・ケナード)、当てずっぽうとしかいいようのない数値ばかりです。ケナードは多分まぐれ当たりでしょう。特にひどいのがディロン・ブルックスで、ウィングスパンを6' 11"と書いていますが実際は6' 6"しかありません。この選手はドラフト絡みで言うと、ウィングスパンがこのポジションの選手として小さすぎることでむしろ有名なぐらいで、この選手の弱点を挙げる際はほとんどのスカウティングレポートが真っ先に腕の短さを挙げる程です(例えばnbadraft.net)。6' 11"というのはウィングとしては理想的とも言える大きさで、むしろ美点として高く評価されるサイズでしょう。全く実態からかけ離れたおかしな数字なのです。

とにかく、ひどい。「でっちあげ」「捏造」というマイナスの言葉で表現するにしてもまだ足りない、度を超えてひどいとしか言いようがありません。憶測で書くぐらいなら書かないほうが絶対マシです。「憶測でものを書くな」はWikipediaの基本的な方針でしょう。書くのであればきちんとソースを示すべきです。日本語の項目を作ってくれる事自体は非常に良いこと、ありがたいことですが、しかしこのような捏造までする必要性がどこにあるのか、全く理解できません。ウィングスパンは大事な要素であるだけに、甚だしく間違った情報を載せることは読者に重大な誤解をさせることになり、それははっきりと有害であると言い切れます。とにかく、でっち上げるぐらいなら何も書くべきではありません。本文で取り上げたジマーマンとジジッチに関してはこのブログの読者と思われるHITNOMという利用者が修正してくれてますが、その都度個別に修正しても根本的な解決にはならないので、できるなら、この記事のURLを示すなどして、エリクセン氏に直接ウィングスパンの記載をやめる・削除する・書くならちゃんと調べてソースを示すように伝達していただければ非常にありがたいです。

この問題はエリクセン氏に限りません。例えばカイリー・アービングの項目ではウィングスパンは6' 6"と記載されています。これには変遷があるようで、2015年3月27日 (金) 08:35 HITNOMの投稿まではウィングスパンの記載がありませんでしたが、2015年3月28日 (土) 11:15 ソメイヨシノの投稿で6' 9"という記載が加わります。これが、2015年6月13日 (土) 05:38 Teammoneyの投稿で6' 6"に修正されており、これが現在まで続いているようです。しかし、いずれも論拠は示されていません。アービングに関してはNBA Draft Combineでの測定という強固なソースがあり、ここでは6' 4"と測定されています。DraftExpressにはその他の機会での測定結果もありますが、いずれもほぼ同じ数値です。6' 6"とか6' 9"という数字には根拠はありませんし、信頼できる公式の公開情報はそれらが間違ったものであることを示しています。過去に何十回と更新されたであろう、これほどの人気・有名選手の項目ですらこんな具合です。他の言語ではそもそもウィングスパンの表記がされてない場合がほとんどだと思います。身長・体重は各チームの公式サイトに記載がありますが、ウィングスパンはそうではありません。NBAのオフィシャルの測定は、NBA Draft Combineのものしかなく、全ての選手について揃っているわけではありません。日本語版WikipediaNBA関係の執筆者たちは、そもそもウィングスパンを書くこと自体やめたらどうでしょうか。あまりにもいい加減な数字を創作するよりも、そうした方が害がないだけ良いはずです。

(10/13 08:00追記)

エリクセン氏、自供する。繰り返しになりますが、身体測定値に対してソースを示さないことはエリクセン氏だけに限った問題ではなく、日本語版WikipediaNBA関係の執筆者全体に通底する問題であるように思われます。書くなら調べる、調べないなら書かない、ということをコミュニティ全体で再確認したほうがいいのではないでしょうか(Wikipediaにどんなコミュニティ機能があるのか、それがちゃんと機能しているかは分かりませんが)。他の分野と違い、絶版古書をほじくり返さないと目的の情報が得られないということなどなく、検索一発ですぐ分かることなんですから。ウィングスパンはソースがあったりなかったり、ソースがバラバラだったり、ソースが信頼できないものも散見されたりするので、そもそも書かないというのが最も確実だと個人的には思いますが、どういう方針にするかは内部の人たちが議論して決めるべきでしょう。