だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

NBA Draft Combineの数値2019、ドラフトロッタリーの新しいオッズはどれぐらいタンキングを抑止したか

NBA Draft Combineの数値2019

とにかくテネシー大のジョーダン・ボーンの身体能力がすごい。特にレーンアジリティ9秒台なんて初めて見ました。驚愕。過去に一人いるみたいですけど。Max Vert以外は全部門で1位、そのMax Vertも1位のジェイレン・レキューに0.5インチ差の42.5インチでほとんど誤差みたいなものでしょう。これほど全方位で最高レベルの数字を残している選手は過去にもいないと思います。コンバイン史上最高レベルの身体能力値ではなかろうか。しかしこの選手はウィングスパンが6' 3.25"しかないのが厳しい。あの小さいカールセン・エドワーズとスタンディングリーチがほぼ同じ。AST/TOで見ると良いものの、TO%は3年間通じて14%ちょいでほとんど改善しておらず、ゲームメイカーとしてどうなのかなと疑問はあります。ワークアウトの動画やハイライトを見るに、非常にバランスが良く下半身の力がボールにスムーズに伝わっているお手本のようなシュートフォームで、3P%以上に質が高そうですが、シューターとして考えるにもサイズが、というところ。今回のコンバインで評価は上がったと思いますが、それでも2巡目でも指名はされないかな、という印象です。

サイズは、でかいのが分かっている選手はやっぱりでかかったね、というぐらい。予想を裏切るすごいウィングスパン、とかはなく、有力選手の数字も過去に比べればおとなしい印象。と言うか、事前に認識されていたよりもウィングスパンが短い選手が有力選手に多い。具体的に言うとPJワシントン、グラント・ウィリアムス、アイザイア・ロビー、タイラー・ヒーローあたり。ブランドン・クラークは、もともと腕が長い印象は全くありませんが、たった6' 8.25"しかないとは。これであれだけブロックとスティールが多いのだから、どれだけ身体能力と勘がいいのか。タッコ・フォールとボル・ボルがでかいのはわかりきったことですが、それにしてもフォールのウィングスパンは一般的な予想以上ではないかと思います。8' 2.25"って。ウィングスパン/靴なし身長比も1.10なので、この比で見てもウィングスパンが大きい(平均は1.06ぐらい)。ただでさえでかいのに余分に腕が長いのでどえらいことです。

個人的に注目しているのがニコラス・クラクストン。3月にThe Stepienのベン・ルービンのレポートが出てから急激に注目を集め始めた選手で、とにかくサイズと技術の組み合わせが面白い。もともと6' 9"のSFだった選手だけあってオフェンスでもディフェンスでもウィングの技術を持っていながら、サイズはさらに成長して完全にCのそれ。つまり、オフェンス面ではボールハンドリングがうまくゲームメイクができてフロアをストレッチできて、ディフェンス面ではペリメーターからリムまで全部守れるという今のNBAで最も理想とされるビッグマンに限りなく近い能力を持っています。プレースタイル的にはCよりもPFでしょう。もともとウィングだったからインサイドプレーヤーとしての能力が劣っているかといえばおそらくそうではなく、例えばより上位で指名が予想されるジャクソン・ヘイズブルーノ・フェルナンドと比べてもBLK%は大差がなく、FTrはむしろ高く、リム付近が主戦場のCと比較してもコンタクトプレーを厭わず「ビッグマン的な能力」はおそらくそこまで差がないのではないかと思います。REB%はやや物足りないものの、STL%が1.9%でビッグマンとしては良い数字。以前少し書きましたが、どうもスティール能力にはプレーヤーの才能が反映されるのではないかと思われるところがあり、これが高いというのは特に良いことだと思います。改善点は明白でとにかく得点効率が悪いこと。NBAでうまく行くかはここの改善にかかっているのでなるべくシューティング育成に長けたチームに指名されてほしいものです。1年目から2年目にかけて全面的に大幅に成績を伸ばしており、今回のコンバインでもレーン・アジリティやジャンプ力はこのサイズの選手にしてはかなり良く身体能力も高い、年齢も20歳になったばかりで若い、1巡目下位から2巡目上位ぐらいで指名予想されている選手の中ではダントツのポテンシャルだと思います。最近の評価の上がり方から見ると10位台の指名もあり得るかなと思います。

他に目のついたところでは、ブルーノ・フェルナンドがCとしては走力が高いことと、外のシュートをほぼ打たなかった割にシューティングドリルの結果が結構いい。NBAレンジからクラクストンとほぼ同じぐらい入っている。FT%が高いのは知っていましたが、案外この選手も現代的なビッグマンになれるかもしれません。あとディラン・ウィンドラーの身体能力が意外と高い。メジャーカンファレンスとそうでないところの差は技術よりもフィジカルな部分が大きいと思いますが、サイズ的にSFの標準以上かつ身体能力で優位に立っているのは良い兆候ではないかと思います。非メジャーカンファレンスのドラフト候補としてはミイエ・オニのほうがアスレチックな印象だったので意外でした。クリス・ウィルクスもウィングとして標準以上のサイズと身体能力があって技術のある選手なので、このへんは2巡目指名なら面白いところ。

ドラフトロッタリーの新しいオッズはどれぐらいタンキングを抑止したか

Nylon Calculusのトッド・ホワイトヘッド記者の記事。タンキングによる下を目指す戦いを防止するためNBAは今年からロッタリーのオッズを変更、負けるインセンティブを減らすことでタンキングを抑止せんとしていますが、それで実際どれぐらい抑止できているのか。

この分析で面白いのは勝敗ではなく、それぞれのチームの、プレータイムで加重平均したチームの平均年齢でタンキングしてるかどうかを判断しているところ。タンキングしているチームは実力ある主力ベテランプレーヤーのプレータイムを減らしてベンチの若手にプレータイムを割くことで、来期に向けたチームの実力の底上げと今期の敗北の両方を得ようとするだろうという考え方でしょう。

結果を見ると、プレーオフに出れなかったチームの中で、そのようなチームの平均年齢がシーズン最初の試合に比べて同じか上がったチームは昨期が3に対して今期は6、平均年齢が下がったチームは昨期が11に対して今期は8とだいぶ減っている。一番下にあるチャートでプレーオフに出れなかったチームに限定して昨期と今期を比較してみるとわかりやすいですが、明らかに年齢が下がりにくくなっています。ただ、昨季は今期と比較して西で上と下の差が大きく早期にプレーオフ行きを諦めるチームが多かったからこうなったのではないかという気もします。有利さの度合いが減ったとはいえ、結局負けるほどドラフトで有利なのは変わらないので、昨季並みに実力差があればやはり昨季並みにタンキングが起こったのではないか。14チームで1位から3位ぐらいまでを引く確率を完全にフラットにすればまずタンキングは起こらないでしょうが(いや、8位と9位の間で負けるインセンティブが生まれるか)、今回のルール変更がどれぐらいタンキング抑止に有効かはまだ判断しにくいように思います。タンキングしない利益があるのはプレーオフに出れるかどうかのところで争っているプレーオフ圏外の東西各1〜2チーム程度ですし、そのへんのチームはルール変更の有無にかかわらずタンキングをする利益はないでしょう。それ以下のチームはルール変更にかかわらずやはり負けるほどいいわけですから、そういったところも行動は変わらない。今年のロッタリーは荒れましたが、過去にも下から9番目のブルズが1位指名権を得ることもあり、荒れた結果があったからと言ってタンキングはなくならないのではないか、負けるインセンティブがはっきりと存在する以上は負けるための行動をほとんど抑えられないのではないか。これから10年ぐらい結果を積み上げないとルール変更による効果の有無は明確にはならないように思います。

(5/19 20:15 追記)

The Ringerのロジャー・シャーマン記者の記事。新しいオッズによって14チーム中の真ん中前後がそれまでと比べて大幅に有利になった結果、プレーオフに出れる可能性があったチームもそれが難しいとわかった途端により低い順位目指してタンキングしだすということをペリカンズとレイカーズを例に示しています。ロッタリー指名権を得るチームの中でタンキングするメリットのないチームは結局全体の下から14位か13位ぐらいで、それ以下のチームのオッズが大幅に改善した結果むしろ負けるインセンティブが増加すらしているのではないかという感じもします。

シーズン終わる、八村塁はNBA Draft Combineに招待されてない?

シーズン終わる

スパーズに限っての話ですが。去年のトレードの段階で、今期は昨期よりも弱くなっているので、昨期ギリギリプレーオフ出れる程度のチームだったのだから今期はプレーオフには出れない可能性のほうがずっと高いだろうと思っていました。更にこの後マレーのシーズン全休の怪我もあったのでディフェンスが崩壊することは間違いないだろうとも思っていました。実際シーズン前半は目もあてられないような最低のペリメーターディフェンスで、ディフェンスこそスパーズのアイデンティティという意識で見続けていた人間にとっては大変うんざりするプレーぶりでした。ましてペリメーター偏重の今のNBAでそこを守れないというのは致命的です。改善の見込みもないしこれはもうダメだと思っていたところで、ホワイトがスターターに固定されてから攻守両面で別物のように良くなったのには驚きました。ロデオロードトリップのあたりにホワイトが怪我で離脱してから全く勝てなくなったことからも、今季はホワイトのおかげでプレーオフに出れたと言ってもいいと思います。一人の選手の有無であれほど結果が変わるというのは稀有なことです。指名当時は、前年にマレーを指名して連続でPGを指名するのは過剰だと思いましたが、結果的には正解だったと言えます。今期はオルドリッジ、ゲイ、ホワイトの3人でなんとかがんばれたと思います。ゲイはFAになり、可能ならばもう1年か2年契約を延長したいところでしょうが、サラリー面の調整がやはり問題になるでしょう。

良い人事もありましたが、ここ2年ほどはむしろ悪い人事が目立ちます。最悪なのはガソルとの契約延長で、キャリア終盤で成績が落ちていくことがわかりきっている選手、POでウォリアーズのスピードに全くついていけず、どんどんペースが上がる今のNBAで必要とされなくなることがわかりきっている選手に3年4800万ドルで契約したのはどう考えても悪手でした。同時期にオルドリッジと3年7200万ドルで延長しましたが、なぜこの二人にこれほど価値の差がないのか、未だに理解に苦しみます。ガソルの契約で来季は507万ドルほどキャップスペースが使われますが、来季はすでにキャップスペースがかなり埋まっているので、これが原因で契約すべき選手と契約できなくなるようなことになる可能性は十分あるでしょう。また、例のトレードも悪手と言えます。以前書きましたが、デローザンがいることで特別チームのオフェンス全体がよくなることはなく、ディフェンス面ではいないほうがチームにとってプラスでしょう。実際今期のOn/Offスタッツを見ても、デローザンがフロアにいても得点効率はほぼ変わらず、いなくなるとDRtgは大幅に改善します。単純に彼のNetRtgを見てもプラマイゼロ程度ですが、デローザンがいないほうが成績が良いのは事実です。もちろん、デローザンがいない時間というのは2ndラインナップのぶつけ合いになっている時間というケースが多く、バルタンズやポートル、ミルズにゲイなどで優位に立っているだけという見方もできますが、デローザンとほぼ同じ時間プレーして同時にプレーしている時間の長いオルドリッジが、On/OffでもNetRtgでも優れているのも事実です。率直に言って、デローザンはいないほうがマシです。できるならトレードすべきですが、外のシュートがなくペリメーターディフェンスができない、現代的なウィングに求められる能力がかけていて年俸は非常に高額、こういう選手を欲しがるチームはなく、ドラフト指名権なしではどこもトレードしないでしょう。例えば、デローザンにラプターズからもらった29位指名権をセットで出すとなると、例のトレードの成果は、レナードとグリーンをポートルと交換したという惨憺たる結果になります。ここまでになると流石にトレードする意味がなくなりますが、キープしたとすると後2シーズンはデローザンのサラリーに人事面で苦しめられる結果になります。他チームが欲しがらないゆえにプレーヤーズオプションは行使すると思いますが、そうなるとマレーを含め来年のFAに響きます。また、同時にトレードしたのが(いい選手ですが)ポートルというのも問題で、なぜミルチノフをスタッシュしているのにわざわざ似たようなCを獲得するのか理解できません。以前書きましたがヨーロッパの選手の年俸は上がっているようで、スタッシュした選手と契約しようにもサラリーは比較的高額になる傾向が強く、オリンピアコスでエース級のプレーをしているミルチノフと今年のキャップスペースで契約できるとは思えません。仮に契約したとしたらゲイの契約に響くでしょう。また、ポートルとミルチノフで二人おいてどうするのか、どちらかを使わなくなるのなら獲得した意味がなくなります。来年契約するとして、ポートルと延長しないならやっぱりRFAでリリースする程度の古典的Cをわざわざ取る意味あったのかという話になるでしょうし、両方契約するならこれも同じタイプのCを二人もおいてどうするということになります。また、そこでミルチノフと契約しないなら多分もう契約する機会はないでしょうから、無駄な指名だったということになります。そもそも、来年のオフにマレーと高額の契約が必要になれば(クラッチスポーツが代理人なので適正以上に釣り上げてくる可能性が高い)、デローザン・オルドリッジ・マレー・ミルズでキャップスペースをほぼ使い切ってしまい再来年のオフまで何もできなくなる可能性が高いでしょう。さらに今年のドラフトは、予め分かっていたことですが、レベルが低いので29位指名権は例年より価値が低く、ここでモノになる選手を指名するのは難しいのではないかと思います。つくづく合理性のないトレードだったと思います。可能性のあったセルティックスとの指名権中心のトレードのほうが遥かに有意義だったでしょう。ガソルの契約とこのトレードは悪手であったと言わざるを得ません。

来期のスターターは、マレー・ホワイト・デローザン・オルドリッジ・ポートルあたりでしょうか。現状3Pが期待できそうなのがホワイトしかいなさそうなのが厳しいです。今期はあれだけ3Pが少ない、時代に逆行する戦い方でORtgがリーグ7位、eFG%が6位と、まあ良くもやったものだと非常に感心していますが、これがこのチームの最大限で、更に外がなくなる来期に今のやり方でこれ以上に伸ばすのはおそらく難しいでしょう。来期は再びディフェンスが重要になってくると思います。

八村塁はNBA Draft Combineに招待されてない?

Yahoo!ニュース個人の菊池慶剛の記事。「コンバインに参加しない=招待されてない」というわけのわからない前提で書かれている。NBA界隈で八村がコンバインに参加しなかった「ワケ」を「招待されていないから」と考えている人間は他に皆無ではないか。ESPNのジョナサン・ギブニーは「明らかに招待を断った」と認識しており、これが当たり前の認識でしょう。

菊池が「招待されないワケ」としているのは、実力が証明されていてNBA関係者がわざわざコンバインでチェックするまでもないからだ、大学3年間で成長過程を各NBAチームが把握できているからだ、ということだそうです。

まず、コンバインが「選手の実力を把握するための場では必ずしもない」ということが分かっていないのでしょう。コンバインは、各NBAチームの指名候補者へのインタビューの場、公正な方法でサイズを確認する機会、公正な方法で身体能力を確認する機会、高い実力の選手に限定された5 on 5でどれぐらいの能力を発揮できるかを実際に見る機会、この4つの機会を全NBAチームに公平に与えるための場です(シューティングドリルはほとんど重視されないと思われます)。招待された選手で有力な選手はこれらに選択的に参加でき、インタビューだけの参加者もいれば、サイズだけ測って身体能力は測らないという選手もいたり、全部参加する選手もいる。身体能力が低い選手や実際以上に身体能力が高いと思われている選手はあえてそこだけ参加しないということもできますし、そのような自分の不利になりそうな部分はあえて隠すようなやりかたは頻繁に見られます。なので、コンバインで選手の実力が明らかになるわけではありません。

そもそも、「実力が証明されている」と言うなら1年生にして大学個人賞総なめのザイオン・ウィリアムソンも招待する理由がなくなりますが、彼はコンバインに参加します。なのでこれは説明として全く整合性がありません。「大学で3年間スカウティングされているから」というのもおかしい。「長い期間大学でプレーしている上位候補はスカウティングされ尽くしているのでコンバインに呼ぶ必要がない」と言いたいのでしょうけど、過去の事実と照らし合わせれば、同じ条件でコンバインに呼ばれている選手がたくさんいることぐらいすぐわかります。例えば2016年は不作年で上位指名候補には上級生の選手が多くいましたが、彼らはもちろんコンバインに招待され、参加しています。例えばクリス・ダンとバディ・ヒールドは二人とも4年生(ダンは3年生ですが、2年時にほぼ全休したものの大学には4年在籍し4年間毎年プレーしてはいました)ですが、アーカイブを見ればわかる通り二人共コンバインに参加していて、しかもダンは1年前から一貫してロッタリー指名予想、さらにドラフト前には3位で予想されて、またヒールドは5位指名で予想されており、八村よりも遥かに高い順位で指名予想されていました。したがって、彼らがコンバインに参加したという事実は菊池の主張する「八村がコンバインに招待されない理由」と完全に矛盾します。つまり菊池の書いていることは間違っているのです。結局のところ、「八村はコンバインに招待されたが参加しない事を選んだ」というのがごく自然な理解です。すべてのNBAチームは有力指名候補の公正なサイズや身体能力を知りたいのですから、そういう候補者は全てコンバインに招待されているはずだというのが一般的な認識でしょう。

コンバインに招待されても参加しないというケースは毎年あります。例えば去年であれば、ディアンドレ・エイトン、ルカ・ドンチッチ、ミケル・ブリッジス、チャンドラー・ハッチソン、ミッチェル・ロビンソンが不参加でした。ドンチッチはヨーロッパがシーズン中だったので参加できなかったのでしょう。それ以外に参加しない理由としては「特定のチームとの間で指名の確約を得ている」というのが一つ考えられます。ハッチソンは予めブルズから22位での指名の確約を得ていたというのがもっぱらの噂でした。今年であれば1巡目下位指名が予想されているワシントン大のマティス・サイブルが似たような状況で不参加なので、比較的下位の指名権を持つどこかから指名確約を得ている可能性が高いと思われます(噂として出ているのはサンダー)。また、あえて情報を与えないことで不利な面を隠し評価を引き上げるという手法もありうるところです。しかし、これで評価が本当に上がるのか、知られていない怪我など教えたくない致命的な欠点があるゆえに参加しないのではないかという憶測によってかえって評価を下げるのではないかと思われる面もあり、必ずしも有利に働くわけではないでしょう。ロビンソンなどはおそらく、ミステリアスな存在にとどめておくことで「世代トップクラスの選手」という評価を独り歩きさせるつもりだったと思いますが、失敗して2巡目に転がってしまいました(ルーキーイヤーのプレーぶりはかなり良いもので、本来1巡目指名されるべき選手であったことは確かです)。2016年であれば、コンバインのあたりでは20位台の予想だったサボニスが11位指名と順位を上げているなどうまく行く例もあります。八村はサボニスと同じゴンザガ大で代理人も同じワッサーマングループなので、このときの成功例を踏襲するつもりなのかもしれません。

しかし、結局当事者以外にはコンバインに参加しない理由はわかりません。どういう意図で参加しないのか、その当事者が明かさない限り我々第三者がそれを知ることはできず、できるのは憶測だけです。したがって、「なぜ八村はコンバインに参加しないのか」という問いに対する正確な答えは、現状では「わからない」以外にはないでしょう。

菊地慶剛のこの記事は非常にレベルの低い間違った記事です。NBAドラフトに関する基本的な理解が欠けているうえ、多少の知識がある人であれば誰にでも簡単に検証できるような主張を、一切論拠を示さず、一切自ら検討した形跡も見せず、完全なる予断で書いてしまえるのは、彼がNBAドラフト分野についてライターとして無能力であることを示していると言えます。菊池は以前にもOne & Doneルールについてかなりいい加減なことを書いており、信用に値しないライターです。一定以上のNBAファンであれば今回の八村の記事が全くいい加減な話であることが一読で理解できるでしょうが、そうでない人にとっては「プロのライターが書いた記事だから信用できる」という認識をしてしまうでしょう。私が見たときに、この記事はYahoo!ニュース個人のスポーツカテゴリーで最もアクセス数の多い記事のようでした。渡邊雄太や八村、更にBリーグのおかげで日本でのNBA及びバスケそのもの話題が増えており、特に八村のドラフト関連の記事は需要があり注目が集まりやすい状況にあると思いますが、そこでこういう思い込みで書かれた間違った記事を垂れ流されるのは有害無益です。渡邊に関するデタラメ記事を書いた水野光博など、ライター連中はどうにもこうにも質の低い仕事をしている印象が拭えません。海外記事の抄訳垂れ流し系のニュースサイトも、アクセス稼ぎ目的の目先の興味を満たすだけの記事ばかりで、NBAに対する理解が全く深まらないものしかないように見えます。メディアよりもアマチュアの愛好家のほうがまっとうな気がします。プロには金をもらうにふさわしい仕事をしてほしいものですが。

この記事はYahoo!のトップページに表示される「あなたへのおすすめ」の欄に表示されていたので読んでしまったのですが、ろくなのを勧めてくれないので困ります。

カーク・ゴールズベリーの"SprawlBall"

ESPNのカーク・ゴールズベリー記者による著書"SprawlBall: A Visual Tour of the New Era of the NBA"が先日発売されました。ゴールズベリーはGrantland出身のライターの中でも特に評価が高く、シューティングの成功率や得点期待値と頻度を合体させたマッピングで有名で、NBAのデータ分析分野では最も評価されている一人ではないかと思います。この本に対して多くのメディアが好意的に評価しており、これを題材とした記事や著者へのインタビューが各所でなされています。Kはまだ買ってませんが、おそらくディーン・オリバーの"Basketball on Paper"以降では最も影響力を持つ本になるのではないかと思います。

本書の一部がESPNに掲載されていますが、非常に面白い内容です。アナリティクスが好きな人もそうでない人も必読でしょう。現在のNBAは効率性の追求から極端に3P偏重になっており、それ以外のプレーが捨てられる結果としてオフェンスのバリエーションがなくなり退屈になっている、ではどうやって3P偏重を是正するか=リーグの平均3P%を減らすかについて、複数のアイデアを示しています。

最初にカスタムラインというやり方を提示しています。MLBでは球場の広さや形、フェンスの高さなど各自自由に定めており、フェンウェイパークのレフト側のいわゆるグリーンモンスターなど極端に個性的な設計も見られますが、このように各チームで自由にラインを設定するというものです。記事の画像を見るのが早いですが、例えばより長い距離の3Pの得意なウォリアーズは3Pラインをより大きく取ることで相手の3Pを殺すことができる、ジャズは3Pラインをなくしてしまえば効率的にオフェンスするためにリムにより近づこうとする相手に対してゴベールのディフェンス力で優位に立てる、などのやり方が可能になります。まあこれは極端で非現実的です。FIBAルールとの乖離が甚だしくなれば国際大会での競争力がなくなって将来的には合衆国が恥をかく機会が多くなるでしょう。またカスタムラインを前提としたチームづくりができるのでホームチームが極端に有利になり、プレーオフでホームコートアドバンテージを持つ側がほぼ確実に勝ち上がってしまうので、プレーオフをやる意味がほとんどなくなるでしょう。

NBAは試合を面白いものにするため、ルール改正に非常に積極的な組織です。ゴールテンディング・ヴァイオレーション、レーンの拡張、3Pの導入と、基本的にはビッグマンの支配力を減らしペリメータープレーヤーを相対的に有利にする方向で改正されてきました。1997年に3Pラインの拡張が行われ揺り戻しが起きましたが、シューティング技術の向上と効率性重視の流れは3P偏重を推し進め、ご存知の状況に至っています。ウィルト・チェンバレンの100点ゲームが再現されることはありえませんが、ジェームズ・ハーデンの50点ゲームは現実によく起こるのが現代のNBAです。3Pラインに対して何らかの改定が必要なのは間違いないでしょう。だいたいシュート1本あたり得点期待値が1になるためには3P%は.333、2P%は.500あたりになる必要があります。ゴールズベリーは3P%を.333に近づけるための方法として、統計的に.333になる距離にラインを引く方法と、コーナー3をなくす方法の2つを提示しています。前者はまさにゴールズベリーの真骨頂というところで、リングまでの距離が長くなるほど成功率が下がるのだからちょうど.333になるのはどの距離か、というのを2017-2018シーズンのデータから探り、25.773フィートからそれ以上の距離からの3Pすべての3P%が.333になると算出しています。今のアーチ部からリングまでの距離は23.75フィートなのでほぼ2フィート伸びるということになります。コーナー3は最短で22フィート、コートの幅は50フィートなのでこのラインであれば当然コーナー3はなくさなければなりませんが、この25.773フィートという数字はコーナー3が存在することを前提としてオフェンスをした上での数字なので、これは更に別の考察をする必要があります。コーナー3はすべてのジャンプシュートで最も効率の良いショットなのでできるだけたくさん打ちたいわけです。そのために両コーナーにシューターを固定する布陣が頻繁に見られるようになりますが、相手ディフェンスはコーナーにいるプレーヤーのマークを外せばその効率の良いシュートを打たせてしまうのでマークはなかなか外せない、となるとそういう布陣でオフェンスされると実質的に3 on 3をやってるのと同じことになります。これがオフェンスの流動性を下げ、NBAをつまらないものにしてしまう要因となります。ここでコーナー3の22フィートというボーナスをなくし、今のまま23.75フィートを全体に適用すれば、ほとんどスペースがなく3Pラインを踏んだりOut of Boundsをやらかしたりするリスクが高いコーナーでプレーする理由がなくなります。これによってコーナーにシューターを固定する戦術を取る理由がなくなるので、オフェンスの流動性が上がりダイナミズムが向上します。また、ディフェンス側でも3Pを警戒するエリアが従来のアーチ部からアーチを少し伸ばした程度のところまでに減ります。コーナー3があるためにアーチ部全体を3人のディフェンダーでカバーする必要があったのが、5人でカバーできるようになるのでオフェンス側は3PAのためのスペースが減り、コンテステッドショットが増え、3P%が下がると思われます。仮に25.773フィートに拡張するのであればディフェンスする必要のあるスペースがさらに大幅に減るので、3P%は.333よりもさらに下がるでしょう。個人的には3Pラインを伸ばすよりもまず23.75フィートの一律適用によってコーナー3の利点をなくしてみる、それでもなお3P%と2P%のeFG%が均衡しないならラインを伸ばすことを検討すれば良いのではないかと思います。

もう一つ強烈なアイデアとして、3PAに対してはゴールテンディングを認める、ということを提示しています。もしこれが認められるなら、ビッグマンはペリメーターに出張るよりもリム付近にポジションを取り続けて相手の3PAをリングの上で弾き続けるほうがディフェンスに貢献するようになるでしょう。オフェンス側のビッグマンはディフェンス側に仕事をさせないためにボックスアウトするのが重要な仕事になるかもしれません。また、相対的に2PAの価値も増え、特に確率が高くシューティングファールをを引き出しやすいリムに近いシュートの価値が上がるので、その面で有利なビッグマンの価値もまた上がるでしょう。small ballの時代にほとんど存在意義がなくなった古典的なビッグマンですが、これが認められれば復権するのではないでしょうか。実際これで3P%がどれぐらい減るかは全く想像もつきませんが。

現在のNBAは明らかに3Pに偏重しており、しかも20年以上改定されていない3Pラインのままでは偏重の度合いが高まることはあっても低くなることはありえないのが明白です。何らかの施策は必要と思いますが、その際にはゴールズベリーの提案は参照されるものになるでしょう。

これ以外には、FiveThirtyEightにもゴールズベリーの本の抜粋。マッピングの方法とそれが明らかにしたシューティングの効率性について。3Pとミッドレンジジャンパーで成功率がそれほど変わらない(ジャンプシュートの成功率は35〜45%の範囲に収まってしまう)のに価値は1.5倍も違うことがマッピングで一目瞭然になってしまった、これによってリーグ全体がダリル・モーレイ的なショットセレクションへ流れてしまうことになる。今のNBAの流れをゴールズベリーが加速させた面があるのは間違いないでしょう。Sports Illustratedにゴールズベリーのインタビュー。ゴールズベリーは3Pラインは必要だが、それが効率的すぎるためにポストアップやミッドレンジなどのオフェンスバリエーションを殺してしまっていることに対して否定的なのがわかります。彼の関心の中心は勝利への最短距離の追求ではなく、ゲームに多様性を取り戻す、そのためにいかにルールを作り直すか、ということにあるのがわかります。この点が他のアナリストとは異なる点でしょう。Washington Postにもゴールズベリーのインタビューがあります。2017−2018シーズンにスパーズで働いていましたが、その際にポポヴィッチ(3P大嫌い!)などのバスケットボール観と向き合ったことがこのスタンスに影響を与えているのではないかと思います。

(5/6 21:20 追記)

SAENのマイク・フィンガー記者の記事。ゴールズベリーに取材して書かれたもので、スパーズにいた頃にどういう仕事をしていたかを主に話題にしていて面白いです。勘違いしてたけど、2016年から2年間ですね、在籍していたの。戦術構築についてもっぱらやっていたのだと思っていましたが、どうもドラフトやGリーグ選手のスカウティングのためのアナリティクスでより大きな仕事をしていたようです。この間マレー、ホワイト、ウォーカーを指名し、フォーブスがドラフト外から育っていますが、この辺のスカウティングに何らか影響を及ぼしている部分はあるようです。