だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

ヨーゴス・パパヤニスの成長とキングスの(多分)明るい未来

しばらく更新しないでいるうちにブックマークに入れたネタがカビそうになってきているので、そういうのを風通しの良い所に出していきたいと思います。話としては古いものも多いでしょうが、日本語で書かれているブログやらツイッターやらで同じものを拾っているところは多分ないと思うので、書き留めておく意味は多少はあるでしょう。

The Step BackのDリーグウォッチャー、クリス・ライカートによるヨーゴス・パパヤニスの分析記事が結構面白い。彼は2016年ドラフトの13位で指名されたわけですが、これは全くのサプライズピックで、同時に持っていた22位指名権でも十分だったでしょうよとほぼすべてのメディアで叩かれていましたし、Kも正直理解できない指名だったのですが、キングスのディバッツGMはパパヤニスに対してこの順位で指名するだけの価値を見出していたからこその指名だったのでしょう。じゃあその価値ってなんなの、というのが分からなかったのですが、この記事を読むとなんとなくわかってきます。

端的に言って「典型的なアメリカンCの真逆のプレーヤー」ということになるでしょうか。とにかくソフトでコンタクトプレーを避ける一方、シューティングタッチは非常に良く、オープンなら躊躇なく3Pをうてるレンジの広さがあります。リム付近だけを仕事場とする古典的ビッグマンが淘汰される一方、フロアをストレッチできるビッグマンの重要性が上がり続けている現在の時流に適合する選手と言えます。コンタクトプレーを避ける結果FTAが非常に少ないですが、成功率は高く、コンタクトプレーでFTを稼げるようになったらそれだけでも強力なオフェンスオプションになりそうです。また、この記事で特に多く取り上げられているのがフックショットの上手さで、ペイント内での得点が殆どを占める中で特にフックショットの質が抜群にいい。今日現在までで51本打って32本成功、成功率が62.7%とかなかなか凄まじい。十分な本数を打ってこれほどフックショットの成功率が高い選手はそうはいないです。レイアップは53本打って成功率が45.7%なのですが、これはまあかなりひどい水準で、フックショットの成功率と本数と比較すると、「シュートスキルは極めて優れているがコンタクトに弱すぎる」ということが如実に伝わってきます。レイアップとフックショットの本数がほぼ同じというのも普通は考えられない。しかし、普通のセンターならゴリゴリインサイドで押し込んでレイアップにいったりするようなプレーが出来ない一方、普通のセンターは出来無いような高度なフックショットをうてる、それも技術的に防ぎようがなく精度も高いのだからかなり大きな武器になると思います。ペイント外からターンアラウンドでの10ftぐらいの距離でのフックショットの動画があるのですが、テクニカルかつ謎すぎて笑ってしまいます。平面でのクイックネスは遅いですが(走力自体はこのサイズではかなり高い)、圧倒的なサイズがありBLKはかなり多く、パワーが付けば優れたリムプロテクターになれると思います。またASTは極めて少ないですが、ヨーロッパ時代のプレーを見るとなかなかいいパサーで、ポストで貰ったらとにかく自分でシュートさせる方針で指導しているためこれほど少ないのだと思われます。

結局のところ、筋力が上がってコンタクトに強くなることが攻守両面での向上に大きく繋がりそうです。パパヤニスにNBAで通用する筋力をつけさせるのと、古典的なアメリカンCにパパヤニス並みのシューティングスキルを身につけさせるのと、どちらが難しいかといえばそれは断然後者のほうが難しいわけです。しかも、パパヤニスはその技術を19歳で持っているというのがすごいところで、ポテンシャルの大きさは計り知れないものがあると思います。ディバッツGMは彼について「オールスタープレーヤーになりうる」とドラフト段階で評していたようですが、この素材を活かせるか否かはキングスの育成の問題なのでちゃんとやってほしいところです。

さて、キングスといえばこの前どデカいトレードを行いましたが、それに関してThe Sacramento Beeのマット・カワハラ記者によるバディ・ヒールドについての記事。ヒールドの練習熱心さと優れた人間性、そういったものを作り上げた人生経路についてコンパクトによく書けています。しかしながらこの記事で一番目を引くのは、どうもキングスは2016年ドラフトでヒールド狙いだったらしいこと。キングスのオーナーのヴィヴェック・ラナディブが、オールスターブレーク前にペリカンズが2度サクラメントに試合をしに来た時に、2度ともヒールドを探して「我々はまだ君を獲得するつもりだ」と言い続けていたらしい。ディバッツGMはトレードに関して「今年のドラフトはレベルが高いから」と語っている一方、単にそれだけでトレードしたわけではなくヒールドのことを相当高く買っているのが、トレードの相手がペリカンズだったことの大きな要因となったのでしょう。まあ、オーナーとGMの役割分担がちゃんと出来ているのかちょっと不安になるエピソードではありますが。オーナーが現場に積極的に関わっていくチームで強いところって過去も現在も殆ど無いですからね。

今回のトレードはほぼすべてのメディアが「ペリカンズにとっては大成功、キングスにとっては大失敗」という評価で一致していると思いますが、Kは全く逆で、キングスに分のあるトレードだったという認識です。まず、カズンズがいて今まで勝てましたか?その逆ではありませんか?ということを考える必要があります。ここ5年ほど、カズンズのUSG%は30%を大幅に超えていましたが、オフェンス面で特定の選手に過度に依存しているチームではやはりまともに勝つのは難しいでしょう。性格的な問題でチームを散々混乱させてネガティブな影響を与え続けてきたこともあります。いままでカズンズ中心のチーム作りでずっとダメだったのに、これからも同じことを続けていって良くなると考える理由がないと思います。「カズンズがいなくなった」ということが単純にマイナス要因だとは思いません。

また、今回のトレードで去年のドラフトの意味合いが俄然変わってきます。分厚いポジションに更にドラフトで増やしてどうする、というまるっきり訳のわからないいきあたりばったりのドラフトという印象でしたが(いきあたりばったりなのは間違いなくそうなんだけど)、カズンズがいなくなる事で、ここ2年のドラフト指名が宝の持ち腐れにならずに済みそうな感が出てきました。しかも、コーリー=スタインはともかく、ラビシエとパパヤニスはシュートレンジが広くて走れる現代的なビッグマンで、ここに更に優れたシューターのヒールド、3&Dとしてのポテンシャルが大きいリチャードソンがいます。大豊作と言われる今年のドラフトの上位指名権が2つあり、しかも上位候補はPGとSFに集中しており、ちょうどキングスに足りないところにはまります。今の順位で行くと6位(ペリカンズの分)と8位での指名になりそうで(キングスの指名権はブルズにトレードされており、10位以内でプロテクトなのであまり勝ってもうまくない)、6位でジョナサン・アイザックと8位で残ったPGから良い選手(デニス・スミス、ディアーロン・フォックス、フランク・ンティリキーナ)、というような選び方もできるでしょう。また2巡目の上位指名権もあり、今年の2巡目上位は例年であれば1巡目指名になるような選手が残っていると思われるので、これも価値のある指名ができると思われます。2015−2017の3年間の指名の中から、全ポジションにあまねくハイポテンシャルな選手が揃い、今後チームの中核となるようなトッププレーヤーが3人ぐらい残る可能性は一定以上あると思われます。更に言えば、3P中心の現代的なバスケットに対応できる選手が多く揃いそうですので、IT企業の創業者である現オーナーのデータボール志向なチーム作りの方向性も実現に向かっていると言えそうです。またディバッツGMの発言から、人間性に問題のある選手はチームから外していく意図が伺えますので、これまで踏んできた轍はあまり踏まなくなっていくのではないかと思います。

というわけで、Kは今回のトレードはキングスにとっていいトレードだし、将来の見通しはかなり良くなってきたのではないかと思います。将来が楽しみなチームは、という話題になると東はシクサーズで西はウルブズというのがだいたいお決まりですが、キングスも多分これから面白いですよ。今まで訳のわからんキングスの経営戦略を馬鹿にして遊んできたので、余分に応援しときます。2013年にオーナーになって以降ラナディブは落ち着きがないので、また彼がおかしなことにしてしまったりする可能性はあるけど、そのときはまた馬鹿にすることにしよう。