だいたいNBA

Kだよ。だいたいNBAのことを書くのです。だいたいスパーズのことを書くのです。

リハビリお写真帳 Vol.02

(クリックで拡大。1500x1003px。はてなfotolifeにオリジナル

darktableのほうがRawTherapeeよりも何も手を付けていない状態で暗部の描画がうまいように見えること、慣れりゃ似たようなもんということでdarktableをRaw現像ソフトとして活用することにする。

リハビリお写真帳 Vol.01

(クリックで拡大。1500x1001px。はてなfotolifeにオリジナル

昔取った杵柄。はずみで壊れてないカメラを譲り受けてしまったので。以下機材。

  • Sony α65
  • Minolta 50mm F1.4 Ⅰ型
  • Minolta 100mm F2.8 Macro Ⅰ型
  • Marumi DHG スーパーサーキュラー P.L.D
  • RawTherapee 5.0 on Kubuntu 17.04

100mmマクロはほぼ使わない。Raw現像ソフトはせっかくだしWindowsで使えないDarktableでも使うか、と思ってはみたものの予想以上に使いづらかったので、結局慣れたRawTherapeeになってしまう。

壊れていないデジイチを手にするのは何年ぶりだろうか。10年は経っていないが。4月頭に撮った400枚から比較的マシなのを15枚選んではみたものの、納得いく水準のものが1枚もなく、情けない。ブランクがあるからしょうがないっちゃそうなんだけど、腕が鈍ったというかカンが鈍ったというか、どんな写真をどうやって撮っていたかさっぱり忘れてしまった。リハビリだなー。基本的なスタンスとしては「非自己表現、非ファインアート、非記録写真」なので、どこに落ち着いても一般的な意味での「良い」写真にはならないだろう。Kは手に入れたデジイチを2年以内に壊す特殊能力を持っているので、遠からずまた壊れるんだろうな。

ふたつのシーズン平均トリプル・ダブル

ラッセル・ウェストブルックによるシーズン平均トリプル・ダブルの達成

今シーズンのNBAで個別のプレーヤーとして最も大きな話題を集めたのは、シーズン平均トリプル・ダブルを達成したラッセル・ウェストブルックでしょう。シーズン前にサンダーの二枚看板の一方であるケビン・デュラントがウォリアーズに移籍、ドラフト同期の盟友であるサージ・イバーカもマジックへトレードされ、話題的にも戦力的にもウェストブルック一人にサンダーのほぼ全てが集中するのは必然でした。だからといって、これほどの記録が達成されようとは、合理的な根拠に基づいて予想できた人は流石にいないのではないでしょうか。効率性の観点からウェストブルック(とサンダーの戦略)を批判的に検討するのは容易ですが、過去にただ一人オスカー・ロバートソンが1961-1962シーズンに達成したのみで、現代のNBAでは不可能と思われていたシーズン平均トリプル・ダブルを55年越しに達成したこの偉業の価値は些かも損なわれるものではないと思います。

シーズン平均トリプル・ダブルを達成する上で足かせになるのはアシストとリバウンドです。通常1試合あたりのREBの総数はASTの総数の2倍弱になるのが近年の傾向で、一般的にはリバウンドのほうが稼ぎやすく、トリプル・ダブルを量産できる選手は事実上PGに近いポイントフォワードタイプの選手(レブロン・ジェームズやラリー・バードなど)か、例外的にREBを取れるPG(ジェイソン・キッドマジック・ジョンソンなど)に限られており、PGであるウェストブルックにとってより問題となるのはREBです。

ウェストブルックによるシーズン平均トリプル・ダブルの価値とはいかばかりのものでしょうか。スタッツ分析を通じてその価値をなるべく詳細に測ってみたいと思います。

ASTについて

まず、ASTはリーグ・チーム通じて絶対数が少なく、近年試合ペースの高速化が著しいNBAにおいてもリーグ平均で1試合あたりわずか22.6にすぎません。48分プレーし続けるわけでもない一人の選手がこのうち10回以上を占めるというのはそもそも非常に困難なことです。今シーズン1試合平均10以上のASTを記録した選手はジェームズ・ハーデン、ジョン・ウォール、ウェストブルックの3人のみです。

ウェストブルックにとってASTを量産するというのは実は相対的に他のPGよりも難しいと言えます。というのも、ASTはパスをした相手がシュートを成功させることで記録されますが、ウェストブルックの場合はUSG%が歴史的に見ても図抜けて高い、つまり自らのFGA・FT・TOでポゼッションを終了させる割合が他のプレーヤーとくれべて非常に高いため、そもそもアシストを記録できる可能性のあるポゼッションが相対的に少ないのです。具体的に計算してみます。

ASTはパスを受けた選手がFGを成功させた場合にパサーに記録されます。ウェストブルックがコートにいるときのチーム全体のFGAは63.8ですが、この内ウェストブルック自身のFGAは24.0ですので他のチームメートのFGAは63.8-24.0=39.8です。つまり、理屈の上ではウェストブルックがASTを記録できるのは1試合あたり最大で39.8回です。ウェストブルックがコートにいるときのチーム全体のFGは29.3でウェストブルック自身のFGは10.2ですので、ウェストブルックがコートにいるときの他のプレーヤーのFGは1試合あたり29.3-10.2=19.1です。つまり、ウェストブルックがシーズン平均10アシスト以上を記録するには、この19.1回のFGのうち10回以上(全体の52.4%以上)でアシストを記録しなければならないことになります。

同様の計算を他のAST上位の選手で行ってみます。カッコ内はそれぞれ(その選手がコートにいるときのその選手以外のFGA / その選手がコートにいるときのその選手以外のFG / このFGのうち1試合平均10アシスト以上するために必要なASTの割合)です。ハーデンは(46.6 / 22.2 / 45.1%)、ウォールは(48.0 / 23.7 / 42.2%)、クリス・ポールは(41.3 / 20.8 / 48.1%)、リッキー・ルビオは(48.7 / 23.6 / 42.4%)、レブロンは(48.6 / 22.6 / 44.3%)となります。これらの選手と比べてウェストブルックがシーズン平均で10以上のASTを記録することが相対的にずっと難しい事が解ります。なお、今シーズンのウェストブルックのAST%は57.3%で、ジョン・ストックトンに迫る歴代3位の高さです。

ウェストブルックがコートにいるときのチーム全体のASTが15.7ですので、ウェストブルックによるASTが全体の66.2%を占めることになります。USG%が41.7%というNBA史上最高の数字であったことと合わせて、サンダーは得点につながるプレーの殆どがウェストブルックから直接引き出されていると言えます。また、サンダーの1試合あたりのパス本数はリーグ最下位、ASTは下から6番目、セカンダリーアシストはリーグで下から2番目となっています。また、1ポゼッションあたりのパス数と1ポゼッションあたりのボールタッチ数でもリーグ最下位です。この意味することを批判的に理解するなら、サンダーはボールシェアリングをほとんどしていないということになります。ウェストブルックの今季のTS%は.554で、リーグ全体の平均のTS%が.552であることを考えれば、ウェストブルック自身の得点効率はリーグ平均とほぼ同じで、ウェストブルックのFGAのチームのFGAに対する比率が高まるほど、チームのTS%もリーグ平均付近に収束していくことになります。現にウェストブルックがコートにいるときのチーム全体のTS%は.551でほぼリーグ平均で、またチーム全体のTS%は.540でリーグ21位、チームのORtgは108.3でリーグ16位と、サンダーのオフェンス力はリーグ平均よりもやや下であるということになります。ウェストブルックがコートにいるときのほうが成績が良いため、これはウェストブルック以外の選手が悪いという考え方もできますが、ウェストブルックに完全に依存しボールをシェアしない戦略を取っている以上、ウェストブルックがいない13.7分を戦う能力が向上しないのは当然のことです。サンダーにとってこれでいいのか、これで優勝できるのかといえば、大いに疑問です。しかしながら、こういう戦い方を選んだからこそ大記録が達成されたのも確かでしょう。シーズンで46勝できたのも事実です。これ以外の戦い方でこれ以上の成績を残せたかどうかもまた疑問です。サンダーの選んだ戦い方が正しかったのかどうか、明快な結論を出すのは難しいと思います。

REBについて

一般的には、平均10以上のREBを獲得するのはASTのそれよりも遥かに容易です。今シーズン平均10以上のREBを記録した選手は12人います。しかしながら、ここに身長6'3"、ウイングスパン6'8"のPGがいるというのは異様です。いかようにしてREB数を向上させたのでしょうか。

まず、昨シーズンと今シーズンのウェストブルックのREB数を比較しています。昨シーズンはOREBが1.8、DREBが6.0でトータルで7.8です。今シーズンはOREBが1.7、DREBが9.0でトータルで10.7です。つまり、OREBの数はほぼ変わらず、DREBの数を大幅に向上させることで1試合あたり平均10以上のREBを達成したことになります。

ウェストブルックのキャリア通算の1試合あたりのOREB数は1.7で、この向上が難しいとなれば(実際ほぼ毎シーズン1.7前後に落ち着いており、大幅な向上は望み難い)、平均10リバウンドを達成するために1試合あたり8.3回DREBを記録する必要があります。ウェストブルックがコートにいるときのチームのDREB数は25.5で、このうち約1/3にあたるDREBを獲得しなければなりません。ウェストブルックの今シーズンのDREB%は28.8%で、一定以上のプレータイムがある選手の中で10番目に位置し、アンソニーデイビス、カール=アンソニー・タウンズ、ザック・ランドルフといった選手よりも高い数字となっています。では、ウェストブルックは彼らよりも優れたディフェンスリバウンダーと言えるのかというと、おそらく殆どの人は「そんなはずがない」と思うでしょう。PGとして優れたリバウンダーだったマジック・ジョンソンでも、DREB%はキャリア通算で15.7%で20%を超えたシーズンはありません(最も高かったシーズンで18.0%。なお、OREB%は通算5.7%でウェストブルックと同値)。ジェイソン・キッドはキャリア通算で16.0%で、最も高いシーズンで20.8%です(OREB%は通算で4.0%)。ウェストブルックは昨シーズン平均6.0のDREBを獲得し、DREB%は18.1%で、PGとして非常に高い水準ですがありえる数字です。一方で今シーズンの28.8%は完全にありえない水準で、1年で18.1%から28.8%へという変化もありえないものです。この異常な変化をうんだ要因は何でしょうか。

まずはウェストブルックのREBの内容がどう変化したのか、NBA.comのトラッキングデータから、2016-2017シーズンのデータ2015-2016シーズンのデータを比較することで理解します。ウェストブルックのREB数の変化で重要なのはDREBが6.0から9.0へと向上したことで、平均10以上を達成できた要因は全てこのDREB数の向上によります。これについて、トラッキングデータの一番上のOverallの欄を見ると分かることは、OREBの数や内容は昨シーズンと今シーズンでほぼ違いがないこと、コンテステッド(相手チームの選手との接触有りの)DREBは0.9から1.2へと0.3しか増えていないこと、アンコンテステッド(相手チームの選手との接触なしの)DREBは5.2から7.8へと2.6も増えていることです。つまり、ウェストブルックのDREB数の向上は殆どが接触なしのDREBの向上に起因し、これこそがDREB%の異常な変化とREB数平均10以上の達成をもたらした要因ということになります。また、Shot Distance Range(リバウンドを発生させたミスショットの距離)の欄を見ると昨シーズンと今シーズンでほとんど比率に違いがありませんが、Rebound Distance Range(リバウンドを獲得したときのリングとの距離)の欄を見ると6フィート以上の距離でのリバウンド数は昨シーズンと今シーズンでほぼ同じである一方、6フィート以下の距離でのDREB数が合計で2.7も向上しており、またそのうち接触無しでのDREBが2.4を占めています。昨シーズンの総リバウンド数が7.8ですので、つまり「リングから6フィート以下の距離での接触なしのDREBが2.4と大幅に増えたこと」によって平均REB数10以上を達成できたと言って良いことになります。この変化をどう説明すべきでしょうか。

ESPNのトム・ハーバーストロウ記者は「相手のFTAに対するDREBを、チームメートに助けられて拾っているから」と説明しています。相手のFTA最終投に対して、アダムスやカンターといったビッグマンが相手の二人のリバウンダーをがっしりスクリーンアウトしペイントエリアのスペースを広げられるだけ広げ、そこにウェストブルック一人が飛び込んでDREBを拾うことによってREBを稼がせているということです。これは部分的には正しいですが、全てを説明するものではありません。トラッキングデータの一番下のShot Type Rangeの欄を比較すると、Miss FTAフリースローのミスに起因するリバウンド)の項のDREBは0.4から1.2へと0.8向上しています。しかし、昨シーズンから0.8程度DREBが増えただけでは平均10には全く届きません。むしろ2Pのミスに対するDREBと3Pのミスに対するDREBがそれぞれ1.1づつ計2.2増えており、接触のないDREBはそのうち0.9と1.0で計1.9増えており、そのような通常のシュートに対するDREBの増加のほうがずっと影響は大きいと言えます。

これに対する説明となるのが以下の映像です。

ここで取り上げられているのは、ハーバーストロウが説明したもの以外に、「味方との競り合いになったらウェストブルック以外の選手はREBを譲る」「相手のオフェンスリバウンダーがほぼおらず余裕のある状況であればウェストブルックにREBを譲る」「ウェストブルックのいる方にボールを弾いてDREBを取らせる」「ウェストブルック自身、自らのマークマンのマークを外して、ビッグマンのようにゴール下に張ってDREBの機会を待つ」といったプレーです。ウェストブルックのREB数を稼がせるために、本来であれば他の誰かが獲得していたであろうDREBを譲るように、リバウンドに対するチーム全体の戦術が作られていたということで良いと思います。REBは守備側に主導権があり、OREBではこういったプレーはできないので、ウェストブルックのOREBは例年通りで変わらずDREBだけが急激に向上したという事実もこのような戦術の存在を物語ります。リングから近い位置での接触なしのREBが極端に増えていることから、FTAに対するリバウンドのように、他選手が相手のオフェンスリバウンダーのスクリーンアウトに徹しスペースを広げた上でウェストブルックがそれを拾うというという戦術をおそらくできる限りの場面で取っており、映像のプレーのうちのある程度のものはそういう中で発生するプレーなのではないでしょうか。これはスタッツのためのプレーであり、ウェストブルックにトリプル・ダブルを達成させるために人為的な調整を行っていたということですので、人によってはスポーツ精神への冒涜と感じられる種類の行為であることは間違いないでしょう。Kはこの点は否定的に評価しています。一方で、こうした「調整」がそう簡単にできることなのかというとそうでもなく、アダムスとカンターをはじめ、チームトータルのREBがリーグ1位、OREB%がリーグ1位、DREB%がリーグ3位などサンダーは極めてリバウンドに強い選手の揃ったチームであり、そういった選手がきちんとスクリーンアウト等をすることでウェストブルックが容易にDREBを獲得できる状況を作ったり、DREBを譲ったりできるわけです。また、仲間からの強いリスペクトを勝ち取っていなければこうしたやり方を貫くことは難しいでしょう。なお、サンダーのDREB%は昨シーズンと今シーズンで76.0%(17位)から79.0%(3位)へと向上しており、ウェストブルックにDREBを取らせるためにスクリーンアウトの意識を徹底した結果チーム全体のDREB力も改善したと考えられる余地も有り、それならばこうしたやり方をただ批判だけできるわけでも無さそうです。サンダーの試合はほとんど見ていないので、Kにはそれを論証できません。

また、ウェストブルック自身のREB能力が向上している部分もあると思われます。先の映像を見ても、確かに味方に譲られている部分は大きいですが、同時にウェストブルックのポジショニングの上手さは間違いないでしょう。そもそも昨シーズンのサンダーは今シーズン以上にリバウンドに強いチームで、デュラントとイバーカという強力なリバウンダーもおり、今シーズンやったような小細工もなかったにもかかわらずウェストブルックは当時のキャリアハイである平均7.8REBも記録しています。PGとしてはやはり例外的な数字と言えます。昨シーズンのウェストブルックはTREB%が12.4%を記録しており、マジック・ジョンソンのキャリアハイが13.7%、ジェイソン・キッドのキャリアハイが13.2%、しかもこの二人よりもサイズで劣っていることを考えると、このサイズのプレーヤーとして、PGとして、ありうる限界値までREB能力が向上しているように思われます。しかしながら、この二人が結局1シーズンも平均で10を超えることがなかったように、独力で平均10REBを達成できたかと言えばそれは不可能でしょう。8は超えるかもしれませんが、9に達することは考えにくい。やはり先に挙げたような「調整」無しで平均10を超えることは不可能だったでしょう。その意味で、ウェストブルックのシーズン平均トリプル・ダブルはナチュラルな記録ではなく「作られた記録」と言わざるを得ないと思います。たとえそれでも極めて達成困難な偉業であることは間違いないにしても。

オスカー・ロバートソンによるシーズン平均トリプル・ダブル

オスカー・ロバートソンがシーズン平均トリプル・ダブルを達成したのは1961-1962シーズンです。ロバートソンのスタッツを分析する上で問題なのは、現在であれば取られているデータが取られていないことです。OREB/DREBの区分やSTL、BLK、そして何よりTOが記録されてないために、USG%やポゼッションといった現在のスタッツ分析における極めて重要なツールが使えないのは厳しいものがあります。先に行ったように、USG%やAST%、REB%を用いることができれば、よりウェストブルックとの比較がしやすかったのですが。

ロバートソンが長きに渡りただ一人シーズン平均トリプル・ダブルを記録し得たのは、端的に彼がその時代の突出したオールラウンダーだったからです。平均10以上のアシストを5シーズン記録するゲームメーカーであるだけでなく、PGとして例外的なリバウンダーでもあったのは身長6'5"で体重205lbsという優れた体格の恩恵もあります。これは身長・体重ともロバートソンがNBA入りした当時1960-1961シーズンのNBA全体の平均値に一致します。現在のNBA選手の平均身長・体重はそれぞれ6'7"と220lbsですので、今の感覚で言うとウイングの選手と同じぐらいのサイズということになります。具体的にこのサイズに一致するのはデマー・デローザン、エヴァン・ターナー、ターボ・セフォロシャの3人です。PGとしては非常にサイズのある選手だったことがわかります。もちろん身体能力やリバウンドのセンス・技術も優れていたのでしょう。FTr(FGAに対するFTAの比率)が毎年50%近い数字になっていることから、フィジカルなプレーを全く厭わない頑強な選手だったことが推測できます。しかし、それにしても平均10REB以上、シーズン平均トリプル・ダブルを達成した1961-1962シーズンは12.5というのは現代の感覚からすると非常識な数です。

このような成績を支えた別の要因の一つはポゼッションの多さです。90年代中頃から2010年代前半まで続いた、スローペースで重厚なディフェンスの時代を経て、最近は試合ペースの高速化が急激に進行し、また現代的な戦術の象徴である素早いボールムーブが与える印象から「現代のNBAはかつてないほど高速」というような印象を受ける面もありますが、今シーズンのPace(48分あたりのポゼッション数)は96.4で1992-1993シーズン(96.8)以前は全てのシーズンでこれよりもPaceは早く、しかも時代を遡るほど早くなる傾向があります。ポゼッションの計算に必要なスタッツ(DREB、OREB、TO)がないためこの一覧には1972-1973シーズン以前のPaceがありませんが、BBRの各シーズンのスタッツを見るとそれぞれのシーズンの各チームのPaceが記載されています。1961-1962シーズンであれば、リーグ平均で126.2、ロバートソンの所属していたシンシナティ・ロイヤルズはそれよりも僅かに少ない124.9です。このPaceをどのように計算したか不明なので別の類推方法も示しておきます。ペースが早いということは1試合あたり各スタッツの絶対数が向上する傾向があるということですが、単位ポゼッションあたりのスタッツにはそれほど変化はないはずです。例えばTREB数をPaceで割ったものを指標にしてみると、通常これは.450前後の範囲に収まることがわかります(2016-2017シーズンであれば43.5/96.4=.451)。リーグ全体のFG%が悪ければリバウンド数は増えるのでこの指標はやや増加し、FG%が良ければ減少します。Paceが計算されているシーズンのなかで最もFG%が悪い1998-1999シーズン(.437)では41.7/88.9=.469となり、最もFG%が良い1983-1984シーズン(.492)では43.0/101.4=.424となります。1961-1962シーズンはリーグ全体のFG%が.426と悪いので、かなり余裕を持ってTREB/Pace=.500と仮定したとしても、Pace=71.4/0.5=142.8とだいぶ凄まじい数字になります。現代とは全く桁違いの試合ペースの早さだったことは確実です。

もう一つの別の要因はプレータイムの多さです。怪我の予防のためのプレータイムの制限が普通のことになったのはごく最近のことで、特定の選手に毎試合40分近くプレーさせるトム・シボドーのようなコーチもいますし、プレータイムを制限したりDNP-RESTの必要性を理解しつつもそれを好まないレブロンのような選手もおり、それが真に当然になっているとは未だいい難い状況です。まして50年以上前の時代だったら。1961-1962シーズンのウィルト・チェンバレンは全80試合に出場し48.5mpgを記録しました。チームのほぼすべてのプレータイムでコート上にいたことになります。これは最も極端な例にせよ、そういう時代だったということです。

ロバートソンが1試合あたりどれぐらいポゼッションを獲得していたかを計算すると、チームのPaceが124.9でロバートソンのプレータイムが44.3mpgなので、124.9*44.3/48=115.3となります。今シーズンのウェストブルックについて同様の計算をすると、チームのPaceが97.8ウェストブルックのプレータイムが34.6mpgなので、97.8*34.6/48=70.5となります。つまり、ロバートソンは1試合あたりウェストブルックの1.6倍以上のポゼッションをプレーできたということになります。単純に言えば、ロバートソンがシーズン平均トリプル・ダブルを達成するのはウェストブルックの約1.6倍簡単で、ウェストブルックがシーズン平均トリプル・ダブルを達成するのはロバートソンの約1.6倍難しいということです。ウェストブルックについて行ったのと同じような計算をロバートソンのASTとREBについてもしてみます。

ロバートソンがコートにいるときのチーム全体のFGAとFGをまず推測します。ロバートソンのプレータイムは44.3mpgでチームの1試合あたりのFGAは105.2、チームの総プレータイムは不明ですが歴史的にはリーグ平均は241.0から242.0の範囲にだいたい収まるので241.5と仮定すると、ロバートソンがコートにいるときのFGAの総量は105.2*44.3/(241.5/5)=96.5となります。チームの1試合あたりのFGは47.6なのでロバートソンがコートにいるときのFGの総量は47.6*44.3/(241.5/5)=43.7となります。ロバートソン自身1試合あたり22.9FGA、11.0FGを記録していますので、ロバートソンがコートにいるときのロバートソン以外の選手のFGAは73.6、FGは36.6となります。先に行ったように(その選手がコートにいるときのその選手以外のFGA / その選手がコートにいるときのその選手以外のFG / このFGのうち1試合平均10アシスト以上するために必要なASTの割合)を求めると(73.6 / 36.6 / 27.4%)となります。ウェストブルックの最後の数字は52.4%でしたので、1961-1962シーズンのロバートソンが10AST以上を記録するのは、今シーズンのウェストブルックのそれよりも2倍近く簡単だったことがわかります。ロバートソンの1試合あたりASTのキャリアハイは1964-1965シーズンの11.5ですが、このシーズンのAST%は37.8%で、ウェストブルックが今季10.4ASTを記録する中でAST%が57.4%に達したことを考えると、一定以上にボールが集中するゲームメイカーであれば10ASTを記録するのは比較的容易な時代だったと言えます。ロバートソンのAST%を見る限り、現代であればドリュー・ホリデイぐらいのPGであればシーズン平均10ASTは問題なく可能だったでしょう。

同じようにロバートソンがコートにいるときのチーム全体のREB数を推測すると、70.8*44.3/(241.5/5)=64.9となり、このうち10REB以上を獲得すればよく、ウェストブルックがコートにいるときのREB数が34.6だったことから見て、やはりREBについても1961-1962シーズンのロバートソンが1試合あたり10REB以上を記録するのは今シーズンのウェストブルックの2倍近く簡単だったと言えます。

以上の理由から1961-1962シーズンのロバートソンの平均トリプル・ダブルは今シーズンのウェストブルックのそれよりも遥かに簡単だった、逆に言えば今シーズンのウェストブルックの平均トリプル・ダブルはロバートソンのそれよりも遥かに難しいものだった事がわかります。一方で、ウェストブルックのシーズン平均トリプル・ダブルはREB面での「調整」なしでは達成され得ないものだったのに対し、ロバートソンのそれは完全にナチュラルなものだったことは確かです。ロバートソンは、そもそも当時トリプル・ダブルなんて言葉はなかった、70年代から80年代はじめぐらいにできたのではないかと語っています。そのような概念がなければ、それに価値が生まれることはありません。仮に当時その概念があったとしたら、少なくともキャリアの最初の5年間は全て狙ってシーズン平均トリプル・ダブルを達成していたのではないかと思います。

シーズン平均トリプル・ダブル――空前でもなければ、絶後でもない記録、かもしれない

ここまで色々書いてきましたが、ロバートソンのほうがウェストブルックよりシーズン平均トリプル・ダブルを達成するのが簡単だからといって価値が薄いとは考えるべきではないと思います。時代をまたいだ比較というのは基本的にはあまり意味がなく、特定の時代の記録はその特定の時代の背景の中でその価値を測るべきです。ロバートソンはトリプル・ダブルという概念のなかった時代に、その価値も知らず、ただチームの勝利を目指してプレーした結果として達成してしまった、同じようなPaceの時代にプレーしていた他の選手は誰一人達成できずロバートソンのみが達成してしまった、このことがやはりロバートソンのオールラウンダーとしての傑出性を物語るのだと思います。当時トリプル・ダブルという概念があってそれに現代のような価値を見出されていたなら、先に書いたようにロバートソンは5回は達成していたはずです。その価値は、現代においては、特定の選手の特定のスタッツをを伸ばすためにチーム全体が奉仕するという本末転倒な現象を生じさせています。これはバスケットボールが積み上げてきた「チームが最優先」という伝統的な価値観からみれば、スポーツ的ではないと言わざるをえないと思います。

一方でウェストブルックが達成したシーズン平均トリプル・ダブルは、現代のNBAの中で文句なしに傑出した記録と認識して良いと思います。得点面で過度にウェストブルックに依存したチーム状況がもたらした「ASTを記録する機会が極端に制限されている」という状況をクリアしたこと(結果としてストックトンの歴代最高に迫るAST%を記録したこと)の凄さ、PGとしておそらく可能な限界までREB能力を高めたことの凄さは、たとえ「作られた記録」の面があるとしても、正しく評価されるべきでしょう。ゲームっぽく言うと、ジャンプシュートとショットセレクション以外のパラメータが全てカンスト状態のような選手と言えるでしょうか。ウェストブルックは明らかに化物です。

さて、今後シーズン平均トリプル・ダブルが達成される可能性はあるでしょうか。これは十分あると言えると思います。というのも、REBに対する「調整」が可能であることがわかった以上、ウェストブルックが今後も平均10REB以上を記録することは可能だからです。今シーズンREBは10.7だったのに対しASTは10.4でむしろREBのほうが余裕があったぐらいです。厳しいのはASTの方で、これに関してはウェストブルックより周りのプレーヤーのほうが得点力がないというチーム状況が改善されれば(オラディポの得点力が改善される、得点効率の高いウイングやPFを獲得する等)よりパスをしやすくなり、安定的に10AST以上を達成できるのではないでしょうか。やろうと思えば、来シーズン以降もシーズン平均トリプル・ダブルを達成できると思います。また、同様の「調整」をチームにする気があるなら、レブロンも十分達成できると思います(チームにも本人にその気が出るとは思えませんが)。

もう一つ、そのような「調整」のないナチュラルなシーズン平均トリプル・ダブルの可能性を考えてみます。これを達成するのに構造的なマイナス要因となるのはプレータイムの制限が当然のことになりつつある現在の状況です。プラス要因となるのは、近年の一貫した急激なPaceの向上です。このふたつがせめぎ合っていますが、Paceの向上が進めば、比較的長くプレーする選手の1試合あたりのスタッツの伸びはどんどん大きくなっていきます。次に、ガードの選手はやはり身体的な限界があるので不可能だと思います。歴代のトリプル・ダブル達成数上位者は軒並みPGですが、サイズによるREB能力の制限はどうしようもないと思います。REB能力はサイズによって制限がある一方、技術に制限はないので、身体的にPF並みのサイズとREB能力があり、かつ超一流のPG並みのボールハンドリングとゲームメイク能力がある選手というのがその条件になると思います。おそらく現役選手の中で可能性があるのはヤニス・アデトクンポとベン・シモンズではないでしょうか。もしも今のNBAナチュラルなシーズン平均トリプル・ダブルが達成されたら……いや、想像だけでものを語っても虚しいのでこのへんでやめとこう。

スパーズを中心に組織論的な話

レイカーズがスパーズから学べること

あまり更新できない、また古い話ばかりで悪んだけども、いくつかの話題が組み合わされることで別のものが見えてくることもあるので、ストックしてある情報からいくつかまとめて出します。

まずはESPNのバクスター・ホルメス記者による記事。記事タイトルまんまですが、新生レイカーズはスパーズを真似して安定したフロントというところからスタートすべきだ、という内容です。オーナーが代替わりして以降のレイカーズの低迷と混乱、そしてそれを精算する形でオールスター後にマジック・ジョンソンを新社長、ロブ・ペリンカを新GMに据え(この辺の話はNumber Webに宮地陽子氏が過不足なく書いているので改めて読まれたし)、再出発を図るレイカーズの最初のホームゲームがスパーズ戦だったこと(で、21点差の大敗を喫したこと)から構想された記事のようです。

ホルメスが書いているように、おおよそこの2チームはNBAにおいて極めて対象的なチームと見られている(ビッグマーケット対スモールマーケット、派手なプレー対基本的なプレー、スタープレーヤー対チームプレーヤー、極端な軋轢対不動の安定性……)、そうでありながら別々のやり方で長年NBAの最強豪チームでい続けている(いた)わけで、レイカーズが何から何までスパーズの真似をするというのは考えにくいし、またそうすべきでもないでしょう。ホルメスが主張しているのは、レイカーズがスパーズからなにか盗むとするなら、「成功はその構成員の協働の精神からもたらされる」というスパーズのアイデアであろうということです。文脈的には選手ではなくオーナーとフロントについての話です。ホルメスの主張は試合前のポポヴィッチへのインタビューに基づいたもので、そこから引用します。

「R.C.と私は長年一緒にやってきたし、その継続性は、敵意やその種のことなしに我々が素早い意思決定をするのに役立っている。("[General manager] R.C. [Buford] and I have been together for a long time. So, obviously, that continuity helped us make decisions quickly without animosity and that sort of thing.")」

「私はオーナーシップから物事は始まるのだといつも考えてきた。人々に自分の仕事を最後までやらせてやるオーナーはより大きな成功を収めていると思う。もし誰かが本来の自分の仕事じゃないことをして大成功しようとするなら、自分が関わる仕事はどんなことでもやってのけられると考えることが常に落とし穴になる、そしていくつかの組織はそうやって問題に巻き込まれてきた。我々はそのような問題を抱えたことはない。("Well, I've always thought it starts with ownership. I think owners who let people do their jobs end up being more successful in our business. And obviously, if someone has made a lot of bucks doing something else, the pitfall is always to think that you can do that no matter what business you might be in, and some organizations get into trouble because of that. We haven't had that problem.")」

「オーナーシップがあれば、我々は計画を遂行し、必要なときにオーナーに情報を提供し続けられる。パズルのピースが正しく配置されれば、マネジメント、コーチ、選手間のシナジーが生まれる。結局のところ、自分第一でなく、あるがままで上手くやっていけ、成熟した客観的な判断の仕方がわかってる人々が重要なのだ。全くもって人次第だ。("So ownership has allowed us to just run the program and keep them informed as we should. After that piece of the puzzle is in place, then it becomes a synergy between management, coaches and players. At that point, it's about people. It's about people that have hopefully gotten over themselves, that are comfortable in their own skins and know how to maturely and objectively agree and disagree. That's totally dependent on people.")」

自分第一でない、ということを非常に高く評価するというのは以前デジョンテ・マレーのドラフト指名とスパーズの育成・スカウティング思想で論じたとおりで、これは別に選手に限った話ではないということです。スパーズファンであれば特に目新しいところのない、ポポヴィッチが何かにつけてよく言うようなことだよなあ、という感じの話ではある。やや抽象的な語り口なのもいつものことで、じゃあスパーズにおいてオーナーやフロントの関係やあり方とは具体的にどういうものなのか、スパーズにおける協働の精神とは具体的にどういうものなのか。

スパーズのフロントとオーナーのあり方

スパーズのオーナーであるピーター・ホルトのリーダーシップについて、SAENのトム・オースボーン記者の記事。ポポヴィッチの「彼は賢いから自分がコーチでもマネージャーでもないことを分かっている(“Peter Holt is smart enough to know he’s not a basketball coach or a manager,”)」という言葉が端的な表現だと思います。ホルトがこれまでチーム運営についてしてきた仕事は、信頼できる優秀な人材(ポポヴィッチビュフォード)に然るべきポジションを与える、設備やスタジアムなどの十分なリソースを用意する、そしてことが動き出したら一切干渉しない、ということのみと言えます。そして自分はスポットライトが当たる場所を避け続ける。スパーズにおける自分第一ではないことを良しとする文化は、まずもってオーナー自身が体現しているといえます。そしてまたこのスタンスをオーナーになって以降貫いてきたことが、スパーズの長期に渡る安定した組織運営の土台になっています。初優勝した1998-1999シーズンの序盤で負け越し、通常のチームであればコーチとしてキャリアの薄いポポヴィッチがクビになってもおかしくない状況でも全く動じなかったことは、この手の記事では頻繁に語られることです。

フロント陣の関係構築の仕方について、USA Todayのサム・アミック記者の記事。ウォリアーズのボブ・マイヤーズGMが携帯電話に保存しているポポヴィッチの言葉が載せられていますのでこれを引用します。

「どのような経営者、GM、コーチであれ、オーナーとの間にシナジーが作られなければならない。 [...] 信頼があるところにシナジーは生まれる。そこに壁もテリトリーもない。あらゆることが議論され、公平に扱われる。批判は歓迎され、批判するものがいればこそ、素晴らしいの組織となるのだ。全ての人にそうした自由な雰囲気があることが組織を良く機能させる。それはドラフトから細かい戦術論まであらゆることに言えることだ。経営者やGMやコーチだけの専権事項というようなものはあってはならない、さもなくばカルチャーなど作られない。少なくとも、それで我々は上手くやっている。(“A synergy has to form between the owner, whoever his president is, whoever the GM is, whoever the coach is, [...] There’s got to be a synergy where there’s a trust. There (are) no walls. There is no territory. Everything is discussed. Everything is fair game. Criticism is welcome, and when you have that, then you have a hell of an organization. That free flow through all those people is what really makes it work. And that includes everything from draft to Os and Xs. Nothing should be left to one area – only to the president, only to the GM, only to the coach – or the culture just doesn’t form. At least that’s what’s worked for us.”)」

オープンでフェアな意見交換を各人が行い、信頼関係を構築していく、そうやって全ての物事を進めていくという趣旨になるでしょう。しかし気をつけなければならないのは、だからといって立場が上のものが組織の行動をコントロールするようなことはしないということです。先に書いたように、オーナーは「自分がコーチでもマネージャーでもないことを分かっている」ため現場で行われていることには一切介入しません。また、ポポヴィッチは社長でもあるのでGMよりも立場は上で、例えば人事に対して意見を強要したり、最悪GMをクビにすることなどもできるはずですが、ポポヴィッチビュフォードを信頼し、人事において彼の決定に対して干渉しません。以前レナード対ヒルのトレードにおいて、ポポヴィッチが最後まで反対していたものの、最終的にはビュフォードの意を飲んでトレードを承諾した経緯があることを書きました。また、ビュフォードのチーム構築のビジョンはかなり長期に渡るもので、例えばオルドリッジの獲得計画はその3,4年前から計画されていたものであることを後にオーナーが明かしていますが、それを許容してチーム作りや戦略構築をできるのはフロント陣やオーナーの強い信頼関係があってこそでしょう。テリトリーのない自由な意見交換を良しとする一方、各人の職分はかなり尊重されているといえます。

反面教師:ニックスの例

スパーズ的なオーナーやフロントのあり方を良しとするならば、おおよそそれと真逆のことをしているのがニックスです。ニックスについて、比較的最近ラリー・ブラウンが「フィル・ジャクソンがそんなにトライアングルをやらせたいんだったら、自分でコーチしろ」と発言したことについてESPNのイアン・べグリー記者の記事。ブラウンは「コーチを雇って自分の好みの一定のやり方でやらせる、ドラフト指名した選手にも自分の好みの一定のやり方でやらせる、なんでそんなことができるのか理解できない。("I can't figure out how you can hire a coach and tell him how you want him to play. I can't figure out how you can draft players for a coach that you know coaches a certain a style, and has been successful doing that style, and get him to play a style that you feel comfortable with,")NBA史上最高のコーチの一人がいるならそいつにコーチさせればいい。トライアングルがやりたいなら、そいつがコーチになって、全員にやり方を教え、それが上手くできる選手を揃えればいい。("Then you coach. You're talking about one of the greatest coaches in the history of our sport. Let him coach. If he wants to do the triangle, put it in, let him coach it, and then teach everybody around and get the players that are comfortable playing it.")」と割とキツめの(でも真っ当な)批判をラジオで行ったようです。

ニックスはシーズン前半はトライアングル色のあまりない戦術で戦っていたようですが、後半はおそらくジャクソンの影響でトライアングル色を強めたようです。デレク・フィッシャーはだんだんトライアングルを目指さない方針へと変わっていったかと思いますが、ジャクソンとの関係がそれでこじれて、結果的に昨シーズン後に解雇されました。トライアングルに関してはカーメロ・アンソニーかデリック・ローズか、「それがいいか悪いかの問題じゃなく、そもそも選択の余地がない」と、事実上強制であることを示唆していたかと思います。

ジャクソンは社長であって、GMでもコーチでもありません。コーチや選手との信頼関係の構築に失敗しているのはフィッシャーやアンソニーとの関係から明白だと思います。事実上コーチを自分の傀儡として扱っており、人事においてGMの領分を冒しています。ポポヴィッチの、組織がどうやって失敗するかについてのコメントに「もし誰かが本来の自分の仕事じゃないことをして大成功しようとするなら、自分が関わる仕事はどんなことでもやってのけられると考えることが常に落とし穴になる」というものがありましたが、まさにその落とし穴にはまっているという感があります。オーナーのジェームズ・ドーランの現場介入に関しては周知のとおりで、ジャクソンが来てからはあまり動きがありませんが、仮にジャクソンが社長の座を降りたとしても、およそスパーズ的な観点で良しと言えるようなチームにはならなそうです。

2月のNYでのスパーズ対ニックス戦前のポポヴィッチへのインタビューがNewsdayのロジャー・ルービン記者の記事に載っています。アンソニーのトレード騒動やオークリー出禁騒動で揺れていたニックスの現状批判の言葉を記者は引き出そうとしたみたいですが、それに対しては「自分の問題じゃないから」とかわされているものの、自分がGMとコーチを兼任していた時代を振り返って、それはとてつもなく大変だった、全てをやろうとすることは難しいと発言しています。あらゆることを自分でコントロールしようとして全てが上手くいかない状況のジャクソンに対する遠回しなアドバイスと見て良いと思います。

スパーズ的な組織のあり方が最も理想的であるということを前提とするならば、ニックスは失敗すべくして失敗していると言えます。他にも長期にわたって弱小チームに落ち着いているようなチームも同じ轍を踏んでいるところが多いかと思います。では、果たしてスパーズ的な組織のあり方は理想的と言えるのかどうか。Kは比較的覚めた目線のスパーズファンですが、やはりベストだと思います。客観的な評価としても、ESPNのマネジメントランキングで今年も全部門で1位でした。ほぼコンセンサスと言っていいのではないでしょうか。

スパーズの組織論的な話は、デジョンテ・マレーのドラフト指名とスパーズの育成・スカウティング思想でKが書けることは8割方書いたかなと思っていますが、今回の文章と合わせてだいたい書ききったかなあと思います。なおも書くとしたらすんげー細かい話になりそうだが……。

セルビアのMegaってこんなクラブ、他ドラフト話

セルビアのMegaってこんなクラブ

セルビアのMegaというクラブ(基本となる名前はKK Mega Basketで、スポンサー契約に絡んで名前が変わります。今はMega Leks。ヨーロッパだとこういうのはよくあります)に関して、マックス・ホルム記者の記事。ヨーロッパ全体では特に強いわけでもないのに、最近やたらNBAドラフトで指名される選手が多く、一番成功したのが2014年のヨキッチ、去年は3人もいい位置で指名されている(24位でルワウ=カバロー、32位でズバック、35位でザゴラック)、DraftExpressを基準にすれば今年も一人指名されそうです。セルビアといえば、フットボールと同じでレッドスターパルチザンがもちろん強いわけで、Megaはだいたいその下のポジションにいるようですが、なんでそのクラブがこれほどNBAドラフト指名選手を排出できるのか。

やってることは単純で、所属チームでプレータイムを得られない才能のある若手を、国籍を問わずヨーロッパ中から集めているということのようです。例えばルワウ=カバローはフランスの2部リーグのクラブで十分多くのプレータイムを得られていたわけではなかったそうですが、Megaでプレーした1年で一気に評価を上げることが出来たということが語られています。DraftExpressを見るとフランス時代もなかなか高い評価を得ていますが、Megaに移籍してから大幅に評価をあげています。

チーム作りの方針は、ヘッドコーチ曰く「我々の目標は選手がより容易により早くNBAに適応できるようにすることだ。彼らが正しく成長することで、クラブもともに成長する」ということのようです。NBAプレーヤーを排出すること自体を目的にするのはどうなんだと思う部分がある一方、そういう目標を立てることが選手の成長につながったり、より良い選手が移籍して来やすくなったりしてチーム成績に好影響を与えることはありそうですし、NBAチームにドラフト指名されればバイアウトで収入が発生したり、あるいはそれがなくても他のヨーロッパの強豪クラブに移籍することで移籍金が発生したり、クラブの知名度が上がってスポンサーがつきやすくなったりということもあるのかもしれません。経営の話は全く聞いてないようですが、経済的にも優位性のある戦略だからやれてるんだと思います。フットボールの優秀な小クラブがやってることをバスケでやってます、ということでしょう、おそらく。経済規模が全然違うので、移籍金で大儲けみたいなのはないと思いますが。

ミルチノフ頑張ってる

セルビアでドラフトと言うと思い出すニコラ・ミルチノフ。彼はパルチザンで17か18かでスターターになったスーパーエリートなのでMegaなんぞお呼びじゃねえぜってな感じですが。

で、そのミルチノフは順調に成長しているみたいです。ユーロリーグで見ると時間が経つごとにプレータイムが伸びてきてますし、スターターになる回数も増えてきているようで結構です。オリンピアコスってヨーロッパでも超がつくぐらいの強豪、このレベルのチームでユーロリーグでスターターに定着できる選手は多分NBAでも問題なくプレーできると思うので、良い傾向だと思います。相変わらずOREBのほうがDREBよりも多いとかいう謎のリバウンド力を発揮していますが、FTが数も率も上がっているようで、TS%が60%を大きく超えてきています。OREBからシューティングファールをもらいやすいので、彼のような強力なオフェンスリバウンダーこそFTは上手くあるべきです。イップスになってしまっている場合はともかく、努力家の選手はその努力がFT%の安定した向上という形で表れやすい、というのがKの認識ですので(レナードオルドリッジを見よ)、60%切っていたFT%が70%まで着々と向上しているという事実は、ミルチノフがスパーズの選手として適切な資質を持つことを示すものだと勝手に認識しています。ちなみに、現在のミルチノフのOREB%はユーロリーグで18.21%ですが、NBAのOREB%のリーダーはハワードとドラモンドの15.2%で、10%を超える選手は16人しかいません。(追記:プレータイムが一定以上ある選手で!プレータイムが比較的短い選手なら10%超えはたくさんいます。なんかダメな論じ方してしまった。それでも18%なんてほぼ見たことないが)リーグも違うしルールも多分違うと思うので比較してもしょうがないとは思いますが、OREB力の異常さは伝わるでしょう。普通こんな数字は見ない。DREB%がCとしてはだいぶ低いのがさらに謎を深めるミステリーな男、ミルチノフ。早く見たいから来シーズン連れて来て、と言いたいけどオリンピアコスと3年契約だからもう1年スタッシュでしょうね。

NCAAトーナメントでドラフトの評価は上がらない

てな話をVice Sportsのサム・ヴェセニー記者が書いている。"Prisoners of the Moment"というタイトルがうまい。NCAAトーナメントはあまりにも大きすぎる注目を集めるため、ファンやメディアはここでのプレーでプレーヤーに対する評価を左右されやすいが、しかしNCAAトーナメントのプレーなんてプレーヤーの資質を正確に評価するためにはサンプルとして少なすぎでしょ、殆どのNBAのフロントはそんなことには評価を左右されないし、そもそもNCAAトーナメントの前にだいたい評価を終えてて、NCAAトーナメントよりもドラフト前のワークアウトのほうが重要、ということのようです。

それでもやはり試合を見てしまうと影響される部分もある。特に人はより最近起こったことに多く影響を受ける(直近バイアス)ため、シーズン最後の試合であるNCAAトーナメントの印象にとらわれやすい。それを避けるために、高校時代からもっと長い期間をかけて観察し、またトーナメントの期間にハイプを避けるためにわざとヨーロッパのプレーヤーを見に行くGMなどもいるそうです。

これはあれですな、夏の甲子園でのプレーの印象にメディアやファンの評価が左右されるNPBドラフトと一緒、そして甲子園に球団フロントが案外左右されないのも一緒(明らかに左右されてるな、という球団も有りますが)。それでメシを食ってるプロの評価というのは正確だし、そのプロが「NCAAトーナメントには評価を左右されない」といっているのであれば、それが正しいスカウティングのやり方でしょう。ドラフト外でオールスター選手になったのがベン・ウォーレス一人だけ、時代を代表する選手はほとんど最上位で指名されていることを見ても、NBAのスカウトは本当に優秀だなあと思います。

DraftExpressの動画色々

DraftExpressの最終版のスカウティングビデオが出始めているので、ああ、今年も春になったんだなあ、と思う次第。前にもちょっと書いたけど、DraftExpressの動画はStrength編だけじゃなくWeakness編も見ましょうね。